研究課題
・自然劣化した自作レプリカサンプル(各種顔料+動物膠・卵黄・卵白・カゼイン・アラビアガム)をELISA法で分析したが、反応性があるカチオン(Pb2+,Cu2+,Fe3+など)を含む顔料を添加したサンプルの検出感度が低下するという、はっきりとした傾向は認められなかった。どの顔料が影響するかは、各種膠着材によって異なった。・市販の膠製品の由来動物種について、本研究の中で我々が実施してきたLC-MS法による同定(マーカーペプチドの検出による同定)と、他の研究者が実施しているMALDI-MS法での同定結果を照らしあわせたところ、同定結果が一致することが確認でき、われわれの方法の正確さを確認することができた。これまで由来動物種を同定してきた膠商品について、その分析結果をまとめて発表した。・ガンダーラ地域由来の塑像(供養者像)の外側層(石灰とAl,Feを含有)に膠着材が含まれているか分析したところ、ELISA法では各種抗体についてネガティブであった一方で、LC-MS法によるMS/MSデータベースサーチではコラーゲン特異的なアミノ酸であるHylysとHyproが検出され、さらにマーカーペプチドの検索では由来動物の同定には至らなかったものの複数のコラーゲン由来マーカーペプチドが検出されたため、コラーゲンが含まれていることが示唆された。・ホータン由来壁画(6から7世紀)の下塗り(練土)部分から採取したサンプルをELISA法とLC-MS法で分析したところ、ELISA法では卵、カゼイン、植物ガムを検出したものの、LC-MS法のMS/MSデータベースサーチではタンパク質を検出できなかった。ELISA法とLC-MS法で異なる結果が出たのは顔料による影響や経年劣化のためと考えられるが、今後検討が必要である。
3: やや遅れている
コロナ禍のため、出勤が限られ分析できる時間が限られてしまったとともに、遺跡など現地での調査や博物館や美術館で所蔵している作品の調査が限られてしまい、分析する試料が入手できなかった。コラーゲン抗体について、今まで使用していた抗体の反応性が変わってしまい、新しい抗体を選択するのに時間がかかった。
2022年度は、1)絵画レプリカサンプルの作成(継続)と強制劣化、2)強制劣化したレプリカサンプルのELISA法による分析、3)ELISA法における、顔料や経年が与える影響と、検出不可能なパターンの明確化、4)LC-QqQ/MS法や、LC-QTOF/MS法における、顔料や経年や夾雑物が与える影響と、検出不可能なパターンの明確化(強制劣化した絵画レプリカ使用)、5)実資料の分析例を増やし、これにより、膠着材の同定に必要なサンプル量を把握。また、ELISA法とLC-QqQ/MS法やLC-QTOF/MS法の結果に齟齬が生じたときに、どのように解釈すればよいのかの考察を進める。2023年度は、2019-2022年度間に終わらなかった実験の遂行と、実資料の分析やこれまでの成果のまとめを中心に行う。ELISA法、GC-MS法は研究代表者(高嶋)が担当し、LC-QqQ/MS法、LC-QTOF/MS法は、株)ニッピ・バイオマトリックス研究所所属の服部、多賀、熊澤(すべて研究協力者)が担当する。研究分担者である谷口は、膠製品の調達、実試料の調達・調整、試料の顕微鏡観察、XRD分析などを行う。
新型コロナウイルス感染症対策による出勤規制や、館の改修にともない作業スペースに制限が生じたために、実験や分析やレプリカ作成が制限され、計画どおりに自作レプリカ試料の強制劣化試験などができなかったため。また、現地調査や他館所蔵作品の調査を行うことができなかったためや、学会発表がオンラインで実施されたために旅費がかからなかったため、次年度使用が生じた。しかし今年度、来年度にこれらを実施できる見込み。
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Proceedings of The 19th ICOM-CC Virtual Triennial Conference, Beijing 2021, on the theme of Transcending Boundaries: Integrated Approaches to Conservation
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