研究課題/領域番号 |
19K01135
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (80416411)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脱塩 / 浸透圧 / 粘土鉱物 / 湿布材 / 塩類風化 / 引張強度 / 電気伝導度センサー |
研究実績の概要 |
遺跡現地において塩析出によるリスクを定量的に評価する、あるいは脱塩処置による塩濃度の低減を定量的に評価するためには、遺跡現地に設置可能なセンサーによる塩濃度のモニタリングが必須となる。そこで、本年度は遺跡現地に設置可能な電気伝導度センサー(ECセンサー)による、塩濃度のモニタリング方法について検討した。 岩石などの多孔質材料中の電気伝導度は、1)材料自体の電気伝導度、2)含水率、および3)材料中の水分に含まれる塩濃度に影響される。そこで、本年度は均質な材料として豊浦珪砂を試料に選び、純水をもちいて様々な含水率に調整した試料、および同じ含水率に対して塩濃度を変化させた試料を調製して、これらのパラメータが電気伝導度にどのように影響をおよぼすのか検討した。 また、これらの試料の電気伝導については2種類の電気伝導センサーを用いて測定をおこなった。一方は室内実験用の四極式の高精度電気伝導センサーで、もう一方は屋外調査用のもので、測定精度には劣るが堅牢性に優れたセンサーである。後者は電気伝導度に加えて、試料の体積含水率および温度を測定可能のものである。前者の測定値が真値に近いものと想定し、後者の測定値がどれほどこれを再現するのか、2つのセンサーによる測定結果から検討した。さらに、屋外調査用センサーによる材料の体積含水率と電気伝導率の測定結果から、材料中に含まれる水分の塩濃度を推定する式をもとめた。 本研究では大分市に所在の磨崖仏を対象に、現地に同質凝灰岩製の模擬石仏を設置し、模擬石仏中の塩分量のモニタリング、ならびに脱塩処理を実施した場合の脱塩効果を現地で検証する予定であった。本年度はコロナウィルスの影響でこれらの現地調査を実施できなかったため、研究期間の延長をおこなった。次年度(令和4年度)は上記屋外調査用センサーを大分市現地に設置する模擬石仏に対して実装する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では大分市に所在の磨崖仏を対象に、現地に同質凝灰岩製の模擬石仏を設置し、模擬石仏中の塩分量のモニタリング、ならびに脱塩処理を実施した場合の脱塩効果を現地で検証する予定であった。本年度はコロナウィルスの影響でこれらの現地調査を実施できなかったことから、進捗に遅れが生じており、研究期間の延長をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は引き続きパルプを用いた脱塩法についての室内実験を実施するとともに、上記の通り、模擬石仏としての石材試料を磨崖仏現地に設置し、これらの電気伝導度を常時モニタリングする。令和3年度に得た電気伝導度から塩濃度を求める推定式を用いて、模擬石仏中の塩分濃度変化を推定し、塩害リスクの予測をおこなうとともに、脱塩処置を実施した場合に、その効果についても評価可能か検討する。以上のフィールド調査から、塩害によって劣化が進行する磨崖仏を念頭に、塩害による劣化リスクの予測と、それを抑制する手法ならびにその評価方法について、現場で実用可能な手法の提案を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
塩害が進行する磨崖仏現地においてフィールド調査、およびテストピースを設置しての塩移動のモニタリング調査を実施する予定であったが、新型コロナウィルスの影響でこれらの調査を実施することができなかった。次年度は現地に設置する石材試料、ここに設置する石材含水率、電気伝導度などのモニタリング機材一式を購入し、予定していたフィールド調査を実施する予定である。
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