• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

塩類風化が進行する遺跡構成材料からの効果的な脱塩方法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 19K01135
研究機関独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所

研究代表者

脇谷 草一郎  独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (80416411)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワード塩類風化 / 脱塩 / 溶質移動 / 電気電導度 / 硫酸ナトリウム / 塩化ナトリウム / 元素マッピング
研究実績の概要

今年度は石材やレンガなどにおいて、①塩析出による材料破壊のメカニズムを検討するとともに、②材料の破壊を抑制するための脱塩の効果を検討するための基礎実験を引き続き実施した。①では、材料表面において塩析出に至るまでの塩蓄積の過程を定量的に把握することを目的として、下端を塩化ナトリウム水溶液に浸漬した円柱状石材試料の上端を蛍光X線分析装置で二次元の元素マッピング分析をおこない、塩素の検出強度変化から塩の挙動を推定した。その結果、材料表面における塩の析出に至るまでの過程として塩濃度が増加する過程もある程度定量評価が可能である結果を得た。また、塩が析出した際に、材料表面におよぼす応力の推定を目的として、石材および主な塩を対象に、接触角の測定からこれらと水の界面自由エネルギーを算出した。②では、パルプなどの貼付材を用いた脱塩方法や電気的脱塩法を適用した際に、どのように材料内部において塩が移動するのか評価するために、電気的脱塩法を適用したレンガ試料の二次元元素マッピング分析をおこない、脱塩による材料内部での塩化ナトリウムの移動の可視化を試みた。その結果、一次元のみならず試料の鉛直方向による塩移動の差異も含めた、脱塩による二次元の塩移動を可視化することができた。一方で、陽イオンと陰イオンの挙動については更なる検討を要する結果を得た。さらに、遺跡現地において塩析出による劣化箇所および劣化の進行速度を簡便にモニタリングする手法として、SfM/MVSによる三次元モデルの適用を検討した。ここではデジタルスチルカメラによる画像データをもとにSfMによって作成した三次元モデルの精度検証を行うとともに、塩害が進行するレンガ壁を対象に調査時ごとに作成したSfMによる簡易三次元モデルの差分を算出することで、劣化箇所および劣化速度の定量化を試み、実用上では十分な情報を取得できることを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

これまで塩類風化の調査を実施してきた大分市の磨崖仏を対象として、効果的な脱塩方法を検討するために、1)脱塩材料・手法、2)脱塩を実施する時期とその効果を検討するため、電気電導度センサーによる材料内部塩蓄積量の推定方法、について検討してきた。これらを磨崖仏が保存されている実環境下で実践するため、現地に磨崖仏を模した同質石材試料を設置し、この石材試料を対象とした水分・溶質移動のセンシングを実施する予定であったが、新型コロナウィルス感染症対策の影響により、現地での試験体設置、およびモニタリング調査に大幅な遅延が生じた。一方で、この間、現地調査が実施可能で、塩類風化が進行するレンガ倉庫を対象に同様の調査を実施するとともに、蛍光X線分析法を用いた塩移動の定量化・可視化など脱塩方法に関する基礎実験を継続して実施したことから、上記の進捗状況とした。

今後の研究の推進方策

遺跡において適切な脱塩を実施するために、多孔質材料中における水分・溶質移動を推定するモデルの高精度化を目指す。そのために、昨年度実施した蛍光X線分析法による凝灰岩中の塩移動の定量化・可視化実験を対象に、試料中の塩蓄積過程をモデルで再現することが可能であるのか、共同研究者が提案するモデルから検討する。さらに、このモデルを用いて、適切な脱塩方法の検討をおこなう。また、フィールド調査として、上記大分市の磨崖仏において、同質石材で作られた模擬石仏を設置し、実環境下での試験体中の水分・溶質移動のモニタリングをおこなう。この測定結果を数値計算モデルで再現可能か検証をおこない、本モデルの妥当性を検討し、一層の高精度化を目指す。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルスの為に実施できなかったフィールド調査の旅費と調査にかかる消耗品費を確保したため。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (2件)

  • [国際共同研究] 復旦大学/大足石刻研究院(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      復旦大学/大足石刻研究院
  • [雑誌論文] 博物館内における遺構の展示手法と周辺環境の最適化に関する研究 -遺構展示室内における遺構の展示環境の調査-2023

    • 著者名/発表者名
      藤井佐由里、渡邊英明、脇谷草一郎、柳田明進
    • 雑誌名

      一乗谷朝倉氏遺跡資料館紀要2021

      巻: 2021 ページ: 47-62

  • [学会発表] 博物館内における遺構の展示手法と周辺環境の最適化に関する研究 -遺構展示室内の環境調査と遺構の埋戻し方法の検討-2022

    • 著者名/発表者名
      藤井佐由里、脇谷草一郎、渡邊英明、田中祐二、柳田明進、川越光洋、高妻洋成
    • 学会等名
      日本文化財科学会
  • [学会発表] 史跡名勝瑞泉寺庭園における庭石の風化状況に関する調査2022

    • 著者名/発表者名
      莊旺璋、脇谷草一郎、高妻洋成
    • 学会等名
      日本文化財科学会
  • [学会発表] 蛍光X線を用いた多孔質材料表面近傍の塩濃度分析手法の検討2022

    • 著者名/発表者名
      酒井紘太郎、髙取伸光、脇谷草一郎、小椋大輔
    • 学会等名
      日本文化財科学会
  • [学会発表] 歴史的レンガ造建築物の塩類風化対策に関する研究 ―塩を含む材料中の含水率、塩濃度の測定方法と電気的脱塩方法に関する基礎的検討―2022

    • 著者名/発表者名
      釆潤之介、小椋大輔、脇谷草一郎、水谷悦子
    • 学会等名
      日本建築学会近畿支部
  • [学会発表] 歴史的レンガ造建築物の塩類風化対策に関する研究 ―塩を含む材料中の含水率、塩濃度の測定方法と電気的脱塩方法に関する基礎的検討―2022

    • 著者名/発表者名
      釆潤之介、小椋大輔、脇谷草一郎、水谷悦子
    • 学会等名
      日本建築学会
  • [学会発表] 屋外文化財の保存ー環境調整による遺跡現地保存法の考察ー2022

    • 著者名/発表者名
      脇谷草一郎
    • 学会等名
      龍谷大学文化遺産学研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] Basic study on deterioration mechanism of wetting-drying cycles by comparing deterioration state and preservation environment of stone cultural properties2022

    • 著者名/発表者名
      Soichiro Wakiya, Du Zhiyan
    • 学会等名
      International Symposium on Architectural Heritage Conservation Technology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 全天空写真による日射が石造文化財に及ぼす影響の推定2022

    • 著者名/発表者名
      杜之岩、王金華、脇谷草一郎
    • 学会等名
      日本文化財科学会
  • [学会発表] 同一石材で造られた石棺の劣化状態および保存環境の比較による乾湿繰り返しによる石材劣化メカニズムの検討2022

    • 著者名/発表者名
      脇谷草一郎、杜之岩
    • 学会等名
      日本文化財科学会
  • [図書] 月刊文化財2022

    • 著者名/発表者名
      脇谷草一郎(分担執筆)、文化庁編集
    • 総ページ数
      60
    • 出版者
      第一法規
  • [図書] 文化財をしらべる・まもる・いかす ―国立文化財機構 保存・修復の最前線―2022

    • 著者名/発表者名
      脇谷草一郎(分担執筆、早川泰弘・髙妻洋成・建石 徹 編)
    • 総ページ数
      332
    • 出版者
      アグネ技術センター
    • ISBN
      4867070106

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi