最終年度は引き続きレンガ試料を対象に電気的脱塩法をおこない、通電の有無や通電時間が電極への塩移動に及ぼす影響について検討するとともに、塩移動を表すモデル構築のために蛍光X線分析装置を用いた元素マッピング分析から、試料断面における塩の二次元分布の取得をおこなった。また、上記の脱塩実験と平行して、多孔質材料中の熱水分塩移動に関する基礎研究として、1)塩移動に関する基礎理論の構築に関する共同研究、2)基礎理論に基づく解析解の妥当性評価のための蛍光X線分析装置を用いた塩移動の可視化実験、3)これらの応用研究として、本研究の調査フィールドの1つである元町石仏を対象とした石仏表面の塩蓄積量の予測、さらに4)最も深刻な塩害を引き起こす塩の1つである硫酸ナトリウムを対象に、材料破壊メカニズムの基礎研究を実施した。 研究期間を通しては、多孔質材料で構成される遺跡における塩害抑制を目的として、1)主に電気的脱塩法を用いた脱塩手法の検討、2)遺跡現地で脱塩を実践するために、電気伝導センサーを用いた多孔質材料中の塩分濃度の推定法、3)蛍光X線分析装置を用いた塩分布の推定法、について研究を進めるとともに、4)熱水分移動に加えて塩の移動を連成して解くための塩移動理論の再検討についての共同研究、5)異なる結晶水の数を安定相としてもつ硫酸ナトリウムに着目し、硫酸ナトリウムが他の塩と比較して高い劣化リスクを有する要因について検討した。 元町石仏では、石仏を模した同質の凝灰岩製試験体を地盤に据えて試験体内部での塩移動を促進し、電気伝導度センサーを用いて内部の塩濃度のモニタリングをしつつ、脱塩を実施することでその効果を定量評価する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響で実験の開始時期が大幅に遅れたため、最終年度前年に試験体の設置をおこない、最終年度はその塩濃度のモニタリングを試みるまでにとどまった。
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