研究課題/領域番号 |
19K01139
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 晶子 東京大学, 総合研究博物館, 技術補佐員 (40447355)
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研究分担者 |
池田 博 東京大学, 総合研究博物館, 准教授 (30299177)
白石 愛 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (60431839)
高橋 英樹 北海道大学, 総合博物館, 名誉教授 (70142700)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物標本 / 江戸時代 / おしば帳 / 本草学 / 渋江長伯 / 北海道 |
研究実績の概要 |
東京大学総合研究博物館所蔵のおしば帳「北遊草木帖」は、江戸時代後期(1799年)に北海道調査を行なって植物標本を収集した渋江長伯によって作製されたとされる。おしば帳は、和紙に植物を貼り付けて和本の体裁に綴じたものであるが、標本は虫害による損傷を受けており、貼り付けてあるテープ(和紙)も剥がれているものが多く、そのままではおしば帳を開閉する際に標本が壊れてしまうことがわかった。そのため標本の同定に先立ち、まず標本の補修を行うこととした。補修にあたっては、貼り付けてあったもとの状態にできるだけ近い状態に戻す必要があるが、幸い北海道大学の北方資料データベースのガラス乾板写真(北海道大学附属図書館北方資料室などの所蔵資料をエータベース化したもの)の中に、宮部金吾が三宅家から借り受けて撮影した写真があることがわかった。これらが作製当時の状態により近いと考え、これらの写真を参考にして補修の方針を立て、現在、補修作業を行なっている。補修が終わったものから撮影を行い、標本の同定を行う予定である。また、これらの標本と関係がふかいとも考えられる「蝦夷草木さく葉帳」が、北海道大学総合博物館に保存されているが、これらは宮部金吾によって同定されており、すでに画像データベース化されている。これらの植物標本のリストに基づき、現在の分類に照らして標本の同定を見直している。今後は現在の北海道の植物レッドデータブックや採集記録との比較を行なっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
標本の補修作業は本来手間のかかる作業であり、特に復元に際しては注意を要する。標本が予想以上に壊れやすく、テープが固定されていないものはその開閉だけでも標本が壊れてしまう状態にあることがわかった。また、バラバラになってしまった標本の一部が本来どこにあったかを突き止めることは困難である。しかし、補修の際に参考となる資料(写真乾板)が北海道大学の北方資料データベースの中から発見され、これを参照することにより効率があがった。これらを参照することによって、今後は順調に補修が進むと予想される。 また、当該年度は博物館の改修工事にともない、研究場所、時間ともに研究活動が制限された。
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今後の研究の推進方策 |
資料の保存と活用を可能にするため、おしば帳の補修をさらに進める。標本の損傷を最小限にとどめるため、補修が完了したものからおしば帳の写真撮影を行い、標本の同定を進める。標本の画像入力はこれまでスキャナーを用いる方法が主であったが、いたみやすい標本の場合にはカメラによる撮影の方が望ましいと考えられるので、標本撮影に適した写真撮影システムを構築していきたい。北海道大学の写真乾板や撮影をした標本の写真をもとに、同定作業を進める。さらに、これらの標本と関係がふかいとも考えられる北海道大学所蔵の「蝦夷草木さく葉帳」の植物標本と比較するため、現在の分類に照らして「蝦夷草木さく葉帳」標本の同定を見直しながら、現在の北海道の植物レッドデータブックや採集記録との比較を行なっていく。おしば帳に付された漢名については、本草書やおしば帳と同時代の本草学資料、北海道の開拓、調査関係資料を探索し、当時の植物の分類について検討する。またおしば帳の由来を探るため、おしば帳を作成した渋江長伯、保有していた三宅家、北海道調査の背景や歴史についての文献、資料調査を行なっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を実施している東京大学総合研究博物館において耐震工事が行われ、研究室の移転や標本資料の移動を余儀なくされたため調査や作業のための時間と場所が制限され、十分に確保できなかった。撮影に使用する部屋の確保ができていないこと、また標本の補修が終了していないことから、撮影や入力機器の新規購入は一部保留とし、既存の機器でできる範囲で行った。機器の新規購入は次年度とし、特に資料の本格的な撮影は次年度以降に行うこととした。標本の検討を行うための旅費については、当面新型コロナウイルス感染症対応のためにも出来る限りインターネットを活用して、北海道大学のデータベースや標本のデジタル画像を参照しながら標本の検討を行ない、問題点がよりはっきりしてから実物にあたることとする。
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