国外に収蔵される主な伊藤圭介関連標本には、欧米の研究者により分類学的研究がなされ、新分類群発表の際に引用された標本があることを令和3年度までの研究で明らかにしてきた。令和4年度は主として、国外の標本室に収蔵され、欧米の研究者により分類学的研究がなされた圭介標本の重複標本が日本に保存されているかについて調査を行った。国内における主要な伊藤圭介関連標本収蔵施設である国立科学博物館において、当該標本の調査を行った。当該標本は、伊藤圭介の没後、孫である伊藤篤太郎が自宅に保管していた。1941(昭和16)年に篤太郎が亡くなり、当該標本は、篤太郎自身の収集標本とともに国立科学博物館に寄贈された。これらの標本は、寄贈後、特に整理されることもなく、寄贈当時のままに保管され、圭介関連標本と篤太郎収集標本の識別はなされていない状況にあった。この標本の中から、まず、圭介関連標本を特定して、圭介関連標本と篤太郎収集の分別を行った。 圭介が、江戸末期に来日したシーボルトにおし葉標本(おし葉帖のかたち)を贈ったことは広く知られている。令和3年度までの研究で、それらの中に、シーボルトが新分類群発表の際に引用した標本が含まれていることを明らかにした。この圭介標本はオランダの生物多様性センターに収蔵されるが、この標本のリストは圭介自身が手元に留めていて、現在では国立国会図書館に収蔵される。それにはシーボルト自身により、植物の学名が記入されている。この資料を参考にして、国立科学博物館に収蔵される圭介関連標本と特定された標本と、国外の標本室に収蔵される標本の比較を行った。その結果、圭介がシーボルトに贈った標本の重複標本と特定できる標本は、残念なことに圭介の手元には残されていないことが明らかになった。
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