研究課題/領域番号 |
19K01157
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
遠藤 徳孝 金沢大学, 地球社会基盤学系, 准教授 (60314358)
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研究分担者 |
谷口 圭輔 筑波大学, アイソトープ環境動態研究センター, 研究員 (80774794)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 岩盤河川 / モデル実験 / プラッキング |
研究実績の概要 |
山岳河川地形の発達過程および地形学的特徴とその要因を、異なるスケールのプロセスを通して理解の深化を目指す。河川は山岳地帯全体に対しても、侵食の直接的・間接的な主要要素であるが、河川の岩盤侵食の素過程は流域に比べてかなり小さいスケールの現象である。一方、流路の形状はいわゆる”reach scale”の現象、すなわち山岳河川の流路が直線的か穿入蛇行しているかといった性質は数キロメートル・オーダーの現象である。さらに、河川は、線状に連なった流路(支流)が合流してネットワーク(流路網)を構成し面的に広がることで流域の全体的な地形を特徴づけるが、これはreach scaleより長い距離での影響により生じている。具体的には、ある場所の変化、特に河口における海水準変化の影響などによって発生する遷急点が長期的に流路網を遡上することで流域全体の地形を変化させる。 令和2年は、岩盤河床の侵食過程で主要なアブレーションとプラッキングのうち、後者のプロセスの発生過程における特性を理解するために、室内モデルを行った。とくにメソスケールの岩盤表面粗度(~数センチ・オーダー)の影響を考察した。その結果、岩盤の凹凸の波長が大きいほど、遅い流速でプラッキングが発生する傾向が見られた。凹凸のある岩盤では、最上流に位置する凸部が最初にプラッキングされており、下流凹部までの距離が大きいほどプラッキングは遅い流速で発生する。このことから、下流凹部に生じる流れが、上流直近の凸部のブロックにかかる流れからの揚力を減少させていると考えられる。 Reach scaleのモデル実験では、岩盤河川の流路幅を決定する自然要因の中で、地殻変動による隆起速度、岩盤強度、上流からの砕屑物流入量の順で影響力が強いことを示唆する結果を得た。また、流路幅が広いほど、穿入蛇行の程度は低下した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
岩盤河床侵食において主要な過程であるアブレーション(摩耗)とプラッキング(岩塊剥離)のうち、その発生頻度等の理由により自然界において観察が困難であるために解明が遅れているプラッキングに関する室内モデルを行った。一昨年度は、そもそもプラッキングの模擬実験の例がこれまでほとんどなく、その方法を確立するのに試行錯誤したが、令和2年度は岩盤のメソスケールの表面粗度(~数センチ・オーダー)が異なる条件で実験し、その影響を確認することができたことで研究を前進させることが出来た。 流路スケールの形状特徴に関しては、従来の実験方法に加え、上流での侵食によって生産されたアウトサイズの(岩盤を被覆する輸送堆積物よりサイズが大きい)砕屑物粒子を供給しその影響を調べる実験を行うことが出来た。数ミリ以上の粒子を低速安定供給するために専用の供給装置を開発した。自然地形での観察でも、支流から流入するアウトサイズ砕屑物粒子が流路形状に影響を与えることが示唆されていたが、今回の実験でもアウトサイズ砕屑物粒子が流路形状に影響を与えることが確認できた。また、その影響力について、流路形状に影響を与える他の要因である地殻変動による隆起速度と岩盤強度とを比較したところ、地殻変動による隆起速度、岩盤強度、上流からのアウトサイズ砕屑物流入量の順で影響力が大きいことが示唆された。自然界に含まれる複数の要素の相対的な影響度を考える上での基礎データとなる。
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今後の研究の推進方策 |
岩盤河床の侵食過程の主要要因の1つ、プラッキング(岩塊剥離)についてさらに理解を深めるために、今後は節理の結合の強さの影響を考慮していく必要がある。しかし、一足飛びに厳密な定量化は困難であることが予想される。もともと現地においても節理の結合の評価は難しいので、模擬実験において現地の現象を忠実に再現することは意味がない。現象を単純化してとらえる”モデル化”が前提となる。よって、節理の状態の単純なモデル化を考察していく。また これまでの実験を通して、プラッキングの発生には流れによる揚力が重要であるが分かってきたが、流れや模擬岩盤の状態を乱さずに直接測定することが難しい。そのため、実験と並行して、数値計算を組み合わせるなどの手法を検討する。 流路スケールの形状特徴に関しては、アウトサイズの(岩盤を被覆する輸送堆積物より大きい)砕屑物粒子の影響が確認されたが、これまでの実験条件は全て基盤の硬度が均一であったので、そうでない場合について考察していく必要があり、モデル実験でもこれらの要素を取り入れていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の実験水槽を改良した。コンピューター制御の可動堰を1つ増設する予定だが、水槽自体をやや大規模に変更したため、いくつか確認のための予備実験を行う必要が生じた。その都度微調整を行い、それらが済んでから可動堰を増設するのが良いと判断し、導入予定のいくつかの設備は、仕様決定も含めて次年度に行こととしたため。
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