研究課題/領域番号 |
19K01174
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕哉 下関市立大学, 経済学部, 准教授 (30452626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 産官学連携 / 制度的厚み / 薬業教育 / トランジション |
研究実績の概要 |
富山県立図書館、滑川市立博物館、売薬資料館を訪問し、地元医薬品産業に関する資料を収集、分析した。具体的には、地元新聞や医薬品企業の社史などから主に医薬品産業教育(以下、薬業教育)と人材確保に関する情報を集めた。 資料の分析から、当初から地元就職の傾向が強かったわけではないことが明らかになった。1960年代には、医薬品産業の人材不足、人材県外流出に関する指摘が地元紙などにみられた。また、高校薬業科卒業生の進路に関するデータ(1965年から1978年の卒業生)からも、医薬品企業への就職が卒業生全体の3分の1程度であることが示された。この状況に対して、危機感を抱いた地元企業や業界団体、行政は、講習施設を設置し研修や、インターンシップなどを行い後継者や人材育成に努めた。その結果、高卒地元就職率、高卒者の県内就職率は向上した。また、医薬品産業に限ったことではないが2009年度から県が高校向けに配置した「キャリア教育アドバイザー」が、学校と企業の仲介に大きく機能している。以上、富山県の高卒者のトランジションには、産官学連携が大きく影響していると考えられる。 また、富山県の薬業教育について、収集資料のほか、県下すべての高校のウェブサイトを確認し掲載されている学校の沿革から概観した。富山では民間医薬品企業が設立した学校が1893年に設立され(1894年に開校)、その後、大正から昭和期に公立学校(現在の県立高校)の薬業関連学科が設置された。2019年4月現在で薬業科(関連学科)は2校あり、近年では卒業生の6割が県内企業に就職しており、人材供給や定着に一定の役割を果たしている。そのため、2018年には業界団体が薬学科の増設を要請し、県知事も前向きに検討すると報じられている。当地の医薬品産業の歴史にもとづく「制度的厚み」が影響していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料収集は順調に行うことができたが、2020年3月に予定していた富山県や業界団体への聞き取り調査が新型コロナウイルスの影響で実施できなかったからである。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルスの状況次第ではあるが、2019年度の分析で明らかとなった「産官学連携」と「制度的厚み」の実態が捉えられるように現地調査を進めたい。 まずは、富山県や業界団体に対して高校との協力体制について聞き取り調査を進める。可能な限り聞き取り調査を行いたいが、状況によってはアンケート形式に変更することも検討する。なお、高校薬業科へ実習の協力を行っている富山県薬事総合研究開発センターも調査対象として検討する。 高校への聞き取り調査は薬業科2校を中心とし、その他の工業高校は、アンケート調査を実施する。ただし、アンケートの結果、必要に応じて聞き取り調査を行うことも検討する。聞き取り調査、アンケート調査の内容は、県内就職の実態と、行政や業界団体との連携についてである。県内医薬品企業にはアンケート調査を実施し、人材確保の戦略、行政や高校との連携について捉える。また、アンケート調査の結果を踏まえて、聞き取り調査を行うことも検討する。さらには、地元医薬品企業が設置する企業資料館を訪問し資料の収集などを試みる。 なお、2019年度の調査により、資料として学校史や社史がある程度参考になることが明らかとなったため、それらの収集や分析も進め、聞き取り調査やアンケート調査を裏付けるための資料としたい。 また、山口県での調査の準備を始め、計画通り2021年度から本格的な調査を行えるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に富山県庁などへの現地調査を予定していたが変更になったため。2019年度に予定していた現地調査を2020年度に実施することで使用する予定である。
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