研究課題/領域番号 |
19K01174
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕哉 下関市立大学, 教養教職機構, 教授 (30452626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経路依存 / 制度的厚み / コミュニティキャピタル / 制度的リンケージ / トランジション |
研究実績の概要 |
富山県における若者のトランジションの実態把握と、そこに制度的リンケージが構築されているかについて分析した。具体的には、まず、富山県に居住する若者へのアンケート調査を実施し、ライフコースと地域産業教育との関わりについて分析した。結果として就職の際に多くが富山県内の事業所で働くことを考慮しており、それには富山県の居住環境の良さや愛着が影響していることが明らかとなった。地域産業教育との関わりは、医療・福祉や医薬品などスキルが必要な業種ほど最終学歴の教育を評価する傾向や、地域内のインターンや研修などに参加する傾向が示された。進路指導では学校の影響は大きいが、就職先企業を推薦したり、面接指導など技能面以外の部分が主であった。 あわせて富山県医薬品関連企業への調査を実施し、製造部門の人材確保の現状や県内高校、行政との連携などについて分析した。技術を持つ人材の安定的な確保のため、OBが県内高校の説明会に出向いたり、定期的に情報交換などを行っている実態が確認できた。ただし、県内での立地場所、企業規模などが連携の強さに影響を及ぼしていることも明らかとなった。また、製造部門の従業者の主なキャリアパスは、「基本的に転勤や配置転換がない」との回答が多く、このことも地域への定着に影響を及ぼしていると考えられる。なお、古くから医薬品産業が発展していることが影響しているのではないか、という認識も聞かれた。 地域間比較のため山口県高校教育課、労働政策課へ産業教育などに関する調査を実施した。山口県でも県内企業と連携し、人材のマッチング、就職ガイダンスなどを行っていることや、工業高校の再編の際に、地元経済団体から安定した人材の確保のために学科新設や定員増の要望があったことが明らかとなった。ただし、富山県と比較すると「14歳の挑戦」のような取り組みはなく、制度的厚みの地域差が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度までの遅れが影響している。2021年度は、富山県若者調査とその分析、富山県医薬品関連企業調査を優先したため、山口県の医薬品関連企業への調査まで実施することができなかった。準備は進めており、2022年度の前半には実施したい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2022年度は、全体としては以下のように進めたい。1)山口県において医薬品関連企業調査、若者アンケート調査を行い、山口県の若者のトランジション(移動や定着)と地域産業教育との関わりの実態を捉える。2)それらの分析結果と、これまでの富山県での調査、分析結果との比較を通して、地域の産業教育が若者の地元定着率の高さにどのように影響を及ぼしているかを見出したい。特に、これまでの研究で明らかにしてきた経路依存、制度的厚み、制度的リンケージなどの観点から分析、考察を行いたい。 1)に示した個別の調査に関しては、以下のように進めたい。山口県の医薬品関連企業調査に関しては、技術をもつ人材の安定的な確保のため、学校や行政とどのように連携しているか実態を把握する。その際、富山県での医薬品関連企業調査で示された点を参考に、産業の歴史や拠点(本社の場所)、県内での工場立地地域の違いなどについても分析したい。若者アンケート調査に関しては、富山県での調査と同様にライフコースの空間性とそれを規定する要因について把握する。その際、仕事に必要なスキルの違いなどを考慮し業種の違いに注目して調査、分析を進めたい。そして、これらから、制度的リンケージにつながる、信頼関係をもとにした主体間の継続的な関係について実態を捉えたい。 そのほか、2021年度に実施した富山県の若者アンケートの結果について、より詳細に分析する予定である。例えば、必要とするスキルで類型化したり、テキストマイニングの手法を用いて自由記述欄の解析などを行いたい。どのような言葉が用いられているかを把握することにより、学校や企業との信頼関係の有無などが捉えられるのではないかと考えている。 そして、上記の分析結果について学会発表など成果報告を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる現地(富山県)調査の旅費(これまでの累積である)、学会がオンライン開催となったため予定していた成果報告のための旅費の支出が発生しなかったからである。代替案として2021年度には、若者の進学・就職と地域産業教育との関わりの実態を捉えるべく、富山県の若者アンケート調査を実施したが、同様の調査を山口県でも行いたい(そのための費用に充てたい)と考えている。また、コロナの状況次第ではあるが、成果報告のための旅費も予定している。
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