研究課題/領域番号 |
19K01183
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
松村 啓子 宇都宮大学, 共同教育学部, 教授 (60291291)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 畜産クラスター / 集団的学習 / 受精卵移植 / とちぎの和牛を考える会 |
研究実績の概要 |
令和3年度は前年度に引き続き、栃木県内の和牛子牛生産農家、企業、畜産関係者が集う研修・交流会である「とちぎの和牛を考える会」(以下、「考える会」)を取り上げ、同会が和牛改良のための知識・技術の集団的学習に果たした役割を明らかにするために、受精卵移植(ET)による子牛生産頭数の時系列分析、矢板家畜市場の上場牛の血統データの収集、「考える会」の役員を含む矢板家畜市場出荷者(子牛生産者)に対するアンケート調査を実施した。その結果は以下のように要約できる。 (1)1980年代後半から始まった栃木県内の和牛ET子牛生産は、乳牛借り腹により先駆的にETに取り組んだJAしおのやおよびJAなすの管内を中心に拡大していった。2010年以降は大規模法人経営でのET子牛生産頭数が急増し、JAなすの管内の那須・黒磯両地区への集中傾向が強まっている。中小規模の和牛繁殖農家と酪農家の乳牛借り腹を介した連携は、対等な立場で共創的な価値実現を目指すものであり、今日も継続されているが、酪農家の高齢化にともなう廃業により、必ずしも持続的とは言えない状況にある。 (2)「考える会」における集団的学習の意義について、同会役員と役員以外の子牛生産者に分けて研修項目ごとに「学びや効果があった」とする回答率を分析したところ、ゲノミック育種価、子牛の疾病予防、子牛の栄養管理など、自家の経営にすぐに活かせる知識の獲得は、役員であるか否かを問わず高く評価されていた。一方、近交係数、ET技術、ET子牛の哺乳方法、最新の医薬品情報については、役員と役員以外の回答率に統計的な有意差が認められ、前者の値が後者を大きく上回った。また、「考える会」の研修会以外では、身近なJA繁殖部会の会員、家畜市場の購買者、指導に巡回するJA担当者、業界雑誌、「考える会」のHPが、経営改善のための情報源としてとくに重視されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
矢板家畜市場の上場牛データに関して、研究代表者が所属する宇都宮大学とJA全農とちぎの間でデータ提供に関する契約書を取り交わした。事務手続きに時間を要し、実際にデータを入手できたのが令和4年1月となったため、上場牛4万頭分の血統構成の分析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、矢板家畜市場の上場牛データの分析を最優先に進めるとともに、Covid-19の新規感染者数の動向を見極めながら、繁殖方法や新技術導入に関わる知識獲得と、乳牛借り腹、供卵牛預託、受卵牛預託、受精卵販売を介した主体間の戦略的連携について、栃木県内の繁殖・肥育経営体への聞き取り調査を継続し、論文投稿のためのデータの精緻化を図る。また、福島県や宮崎県の畜産クラスター事業の展開と、地域レジリエンスの向上との関連について、関係機関へのインタビューを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)令和3年度も令和2年度と同様に、調査予定の8月から9月にかけてにCovid-19感染拡大による緊急常事態宣言が発出し、県外への移動ができなくなった。栃木県内の調査については、矢板市への3日間の出張(うち2日間は公用車を使用)にとどまったため、旅費の使用が予定額を大幅に下回った。 (使用計画)栃木県内および福島県・宮崎県への調査旅費、GISソフトの更新に使用する。
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