研究課題/領域番号 |
19K01190
|
研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
石井 久生 共立女子大学, 国際学部, 教授 (70272127)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | バスク地方 / バスク・ディアスポラ / バスク・ナショナリズム / 政治地理学 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,ヨーロッパのバスク地方と新大陸のバスク・ディアスポラにおいて展開されるバスク・ナショナリズムに着目し,すべての地域で共有されるナショナリズムの共通項と,各地域における地理的差異を明らかにしたうえで,1980年代の移民収束とグローバル化進行という重大な転換と並行して故地バスク地方で進行した民族的ナショナリズムから静かなナショナリズムへのシフトの具体像を解明すると同時に,故地の変化に対応して新大陸各地のディアスポラのナショナリズムがどう対応したかを明らかにすることを目的とする。 研究計画2年目となる2020年度は, COVID-19の世界的な流行により,本研究課題の調査方法の主軸となる海外現地調査が全く実現できなかった。しかし,これまでに蓄積したデータと,インターネットなどを介して収集した情報をもとに,2本の論説を発表した。ひとつは,アメリカ合衆国ネヴァダ州のエルコに20世紀初頭に形成されたバスク人コミュニティを再現する論文で,その中でバスク人が移住先でバスクホテルをハブとするコミュニティを形成し,ディアスポラ・ナショナリズムの基礎が気づかれる様子を明らかにした。もうひとつは,スペイン・バスク地方のビスカヤ県ドゥランゴにおいて1960年代以降毎年開催されているブックフェアを研究対象とした論文で,ブックフェアを企画運営するゲレディアガ協会,それに参加するバスク地方の住民らの行為にみられるバスク・ナショナリズムの日常的実践としての特徴を明らかにした。後者の論文は,2020年12月に開催された地理空間学会シンポジウムでも発表した内容に基づいている。 海外での現地調査が難しい昨今であるが,そうした状況に対応すべく研究計画修正の検討を早急に進める必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題を遂行するうえで海外現地調査が必須であるところ,2020年初めから現在まで続く世界的なCOVID-19の流行により,最近1年半はそれが全く実施できない状況にある。2020年度は,ヨーロッパのバスク地方(同年度8月頃),ブエノスアイレス市(アルゼンチン)およびモンテビデオ市(ウルグアイ)(同年度2月頃)にバスク・ナショナリズムに関わる主体についての現地調査を計画していたが,実現できなかった。現地調査を補完するために,各地域の関係者とインターネット上で情報を交換して,必要な情報の収集に努めたが,現地調査により得られる情報に比較すれば質量とも断然及ばない。 その一方で,もう一つの研究の主体である「文献調査・情報処理を主体としたバスク・ナショナリズムの理論的研究」のほうは部分的に着々と進行している。特に,バスク・ナショナリズムやディアスポラ・ナショナリズムに関連する文献の収集は着実に進んでおり,現在文献データの分析中である。ただし理論的研究のもう一つの柱である景観分析や言説析は,現地での景観観察やインタビュー調査を実施しなければデータが得られないので,こちらのほうは滞っている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究最終年度に当たる2021年度は,バスク地方(8月頃),キューバのハバナ市(2月頃),メキシコの首都メキシコ市(2月頃)で最終的な情報収集のための現地調査を実施して,研究を総括するための準備を進める予定であった。しかし,最近のCOVID-19の世界的流行により2021年度も海外現地調査は難しいであろう。このままでは当初計画していた海外現地調査候補地の3分の1でしか調査ができなかったことになってしまう。インターネットなどを介して現地情報の収集を進めているが,必ずしも十分といえない。代替候補地もいくつか考えたが,昨今のような状況で現地調査が可能なのは日本国内に限られる。一つ検討中なのは,西日本に集まるイエズス会のバスク出身宗教家のコミュニティについての研究である。現在のような困難な状況下でも,なるべく多くの可能性を見出して,研究計画の遂行に向けて努力していく所存である。しかし,それでも本研究計画の目的を達成するには十分な成果を得ることは難しいため,状況が好転した際に海外現地調査を実施すべく,現時点では研究期間延長を申請することもやむを得ないと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題における直接経費の使用計画の多くを,海外現地調査のための「旅費」が大部分を占めるところ,2019年度末から世界的に流行したCOVID-19の影響で,それ以降海外調査が全く実現できず,その結果次年度使用額が生じた。 次年度は海外現地調査への使用を予定している。しかし,研究計画の最終年度であるが,現状が続くようでは研究計画遂行のための十分な調査が実現不可能であり,研究期間延長を申請せざるを得ないと考えている。
|