研究課題/領域番号 |
19K01191
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山本 健兒 帝京大学, 経済学部, 教授 (50136355)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 経済地理学 / 場所 / エコ社会的市場経済 / 戦略的経営 / フォラールベルク / 隠れたチャンピオン / ゲマインデ |
研究実績の概要 |
2019年9月前半にフォラールベルク州で、①州立図書館での文献閲覧、②中小企業5社への訪問インタビューと工場見学、③2018年以来同州で活発化しているスタートアップ活性化のための支援現場観察、④州経済に関する識者への聞き取り等の調査研究を行なった。 現地で月刊誌『テーマ フォラールベルク』編集長によるインタビューを受けて、これが同誌第52巻(2019年10月号、pp.16-17)に掲載された。このインタビュー記事を読んだヘルベルト・ザウスグルーバー前州首相から帰国後メールをいただき、同氏の政治活動経験をもとにして著された2019年10月刊行になる回顧録を贈呈され、その読解によって「場所に関する戦略的経営」に相当するザウスグルーバー前首相の政策理念を知ることができた。また2019年4月に州政府が公表した『2030年のフォラールベルク州の空間像』の閲読によって、州政府の政策がエコ社会的市場経済を原則としていることを確認した。 2019年度中に公表した研究成果に、フォラールベルク州経済を支えている「隠れたチャンピオン」企業に関する論文公表がある。これは、同州が佐賀県程度の面積で人口約40万人、欧州規模の大都市圏から遠く離れ、州内に人口6万人を超える都市がない場所であるもかかわらず、EU内での州・県スケール約270地域の中でみて1人当たりGDPで2015年に第28位であり、高い経済力を発揮している直接的理由を明らかにしたものである。 また、徳島県神山町の(一社)神山つなぐ公社による同州視察準備に協力し、同公社職員等に対して州政府と基礎的地方自治体(ゲマインデ)の関係について2019年8月4日に同町役場でアウトリーチの一環として講義した。その要点は、フォラールベルク州では州政府とゲマインデとがパートナーの関係にあり、その点で特にゲマインデ連合が重要な役割を担っているということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年9月前半の現地研究で、複数の地元企業経営者や同州経済に関する識者へのインタビューを行なうだけでなく、開始されたばかりのスタートアップ増加施策の状況を観察できた。さらに1990年代から2000年代にかけての州首相を務めた政治家とコンタクトを取ることができた。 また、2019年9月の現地調査で得た知見をもとにしての学会報告を2019年11月に行なうことができただけでなく、フォラールベルク州経済の豊かさを実現するうえで直接的役割を果たしている有力企業の具体に関する研究成果を論文として2本公表できた。以上のことからおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
フォラールベルク州立図書館に所蔵されている同州の経済や州政府・基礎的自治体の活動に関する文献の量は非常に多く、2019年度の2週間弱の現地滞在期間中、企業訪問や識者からの知見聞き取りなども並行して行なったため、文献閲覧収集が予定していたほどに進めることができなかった。そこで、これを2020年度も続行する。 また、前州首相ザウスグルーバー氏とコンタクトを取ることができているので、同氏の回顧録を踏まえたインタビューを実施する。さらに、同州内にはまだ訪問できていない有力企業がほかにもあるので、経済会議所の支援を得て訪問インタビューを続行する。また、注目すべき活動を行なっている基礎的地方自治体への訪問インタビューを行ない、現地での詳細観察も実行する予定である。 ただし、COVID-19感染拡大の影響を受けて渡航が可能かどうか現時点では不透明である。渡航不可能となった場合には、2019年度に収集した資料の精読・整理とそれに基づく論文執筆のみとなる可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地研究のための出張旅費に関して、航空券代金を当初予定よりも低く抑えることができたため、かつ現地での宿泊費と交通費を当初予定よりも低く抑えることができたので次年度使用額が生じた。また、成果発表のための学会報告出張の日数を、本務校での業務のために短くせざるを得なかったことも、旅費が当初予定額よりも下回る使用にとどまった一因である。 2020年度には本務校での勤務と折り合いをつけながら、できるだけ長期間にわたる現地での調査を充実させるための旅費に用いたい。ただし、COVID-19の蔓延が続けば、それが困難になる可能性があることは否定できない。
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