研究課題/領域番号 |
19K01191
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 健兒 九州大学, 経済学研究院, 特任研究者 (50136355)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エコ社会的市場経済 / 場所 / 土地利用 / 住民運動 / 環境保全 / 財政 / オーストリア / フォラールベルク |
研究実績の概要 |
本研究課題の調査対象地であるオーストリアのフォラールベルク州には、州内平坦地にある多数の基礎的自治体(ゲマインデ)を横断する広大な緑地保全地帯がある。これは、州政府が1977年に永久保全すべきと決定した場所である。その設定目的は、健全な自然生態と景観の維持、住民の日常的余暇行動のための場所の確保、そして成果をあげうる農業のための土地確保の3つである。 その一部に工場建設を可能にすべく、緑地保全地帯の一部削減の動きが州内各地で起きていた。2010年代半ばにヴァイラ村とルデシュ村において、実際に用途転換を決定した村長と村議会に抗議する住民運動が起きた。その実態を解明するための現地調査を2022年10月に行うことができた。具体的には、Verein Bodenfreiheitという緑地保全地帯の維持を重視する住民団体、州政府の空間計画局、ザウスグルーバー前州首相などからの聞き取りと州立図書館での関連文書の収集である。 上記2つの村での反対運動は、州民全体や企業団体などを巻き込む論争を惹起した。ヴァイラ村への工場進出を予定した企業は、その本社工場があるドルンビルン市当局の働きかけもあって市内に工場建設用地を確保できたために、住民運動はひとまず終息した。しかし、村長はその後も緑地保全地帯の一部削減を追求している。他方、ルデシュ村では住民投票の結果、緑地保全地帯の一部削減なしとなった。しかし、この住民投票は間接民主主義を否定するが故にオーストリア憲法に違反する、という判決を憲法裁判所が下した。そのため、問題となった場所の将来は不透明な状況にある。 なお、緑地保全地帯の一部削減と工場誘致は村の財政力を高めるためだとするヴァイラ村村長の主張を点検するために、州内の96ゲマインデすべてに関する税収や財政調整制度に基づく歳入の詳細を分析した結果、村長の主張は説得力が低いという結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度と2021年度にCOVID-19パンデミックのために現地調査ができなかったために、研究進捗が遅れていた。とはいえ、その間にも日本国内で可能な文献調査を進め、2022年度には10月に現地調査をすることができた。この当時はまだCOVID-19感染状況がおさまっていると言い難い状況だったために、十分な現地での調査期間を確保できなかった。この理由の故に研究進捗はやや遅れている。 しかし、現地調査ができたために、文献読解でだけでは不確かだったことを、現地の識者に確認することができ、かつその成果を活かした学会報告をすることができたし、フォラールベルク州内の基礎的地方自治体を網羅しての財政力分析を行ない、これを論文としてまとめることができたので、研究の遅れをある程度挽回することができた。
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今後の研究の推進方策 |
現地の州立図書館での文献閲覧でなければ知ることのできないことが、州政府やゲマインデ当局による地域整備・空間計画の歴史をはじめとしてまだ多くあるので、まず、文献調査を主目的とする出張を2023年5月に行なう。その際には、経済活力あるゲマインデや、緑地保全地帯の一部削減を実行したり企図したりしているゲマインデの当該の場所などを訪れて現地観察も行なうとともに、フォラールベルクの伝統産業の一つである刺繍織工業に関する識者からの聞き取り調査も行なう予定である。 2023年9月には、エコ社会的市場経済の実践という意味で注目に値するゲマインデ、企業、諸団体などを訪問して聞き取り調査を行なうとともに、州立図書館などでの補足的な文献調査を行なう。訪問聞き取り調査をスムースに実行できるための準備も5月の出張の際に行なう予定である。 以上を踏まえて、所属する学術学協会での研究報告を秋以降に行ない、そこでのディスカッションを踏まえて論文を作成し、学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度前半期においてもまだCOVID-19パンデミック状況が続いていたために、本研究課題の調査研究対象地であるオーストリアのフォラールベルク州への出張が10月にずれ込み、年度内での出張が1回しかできなかったので、措置されていた研究費を全額支出することができなかった。 しかし2023年4月時点で、日本も調査研究対象地であるオーストリアも、さらに渡航のための経由地としているドイツもCOVID-19感染拡大状況はかなりおさまっており、年度内に2回の調査研究出張が可能と考えている。すでに2023年5月の出張が決まっており、これを踏まえて9月にも出張を計画している。 2回の出張によって2023年度中に措置されている科研費を全額支出できる予定である。
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