研究課題/領域番号 |
19K01193
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
長谷川 奨悟 佛教大学, 宗教文化ミュージアム, その他 (10727340)
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研究分担者 |
麻生 将 佛教大学, 公私立大学の部局等, 非常勤講師 (00707771)
熊谷 貴史 佛教大学, 宗教文化ミュージアム, その他 (70719723)
網島 聖 佛教大学, 歴史学部, 准教授 (70760130)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視覚資料 / 空間表現 / 表現技術 / 近世地誌 / 地図資料 / 近世都市風俗図 / 写真資料 / 絵葉書 |
研究実績の概要 |
本研究は、視覚資料の構図や色彩といった問題に対して専門的知見を有する美術史研究者の協力を得て、歴史地理学における視覚資料の空間表現がもつ表現技法や材料の制約を具体的に検証し、こうした制約が権力の意図や社会情勢とどのように関わっていたのかを解明する。これにより、地理学研究が自明視する視覚資料の政治性、権力性を示すとともに、研究自体のありかたを内省する契機を提示するものである。 そこで、人文地理学、ことに歴史地理学研究において盛んに注目されている地図・絵画・写真といった視覚資料に対して、(A)絵画・写真にみる構造や技法の問題、(B)地図よる3次元の表現に関する問題、(C)東洋美術史研究を踏まえた空間表現の問題。そして、この3つの視点からの研究成果を総合的に検討していく(D)博物館における視覚資料の扱いに関する問題という4つの視点を設定している。これについて、研究代表者を含めた4名の研究分担者および研究協力者が分担して進め、定期的に開催する研究集会においてその成果や情報を共有していく。 2020年度は、2019年度に引き続き、上記の(A)、(B)、(C)の視点について、分担者が担当するそれぞれの視覚資料に関する学術論文、学術書、展覧会図録等を収録し、そこで用いられる研究視点や方法論に対する横断的な整理分析を進めてきた。また、オンラインによる研究集会を実施し、それぞれの視覚資料に対する研究の進展状況を報告し、意見交換や情報集約をおこなった。一方で、本年度は、博物館・美術館における展示視察や資料調査などの現地調査については、新型コロナウイルス感染症の蔓延にともなう閉館措置、出張制限措置などが実施されたため、調査を進めるにあたり制限される場面もあった。これによる成果としては、研究分担者による学術雑誌等に掲載された論稿が計4本、学会報告が4本、書評2本などがあげられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者がそれぞれ担当する視点に対して、2019年度に引き続き学術書、論文、図録等の収集を積極的におこない、研究視点やそこで用いられる方法論に対する分析、個別資料を用いた事例研究を進めている。より具体的には、(A)絵画・写真にみる構造や技法の問題について、近世初頭の地誌や周辺資料を事例として、そこに取りあげられる場所性や図像的特徴についての考察、歴史GISなどを用いた執筆者や読者の行動パターンの分析、執筆者の場所認識をめぐる分析を進めた。さらに、近代の岐阜県大垣市や鹿児島県奄美大島で活動するキリスト教団体が残した活動写真や当該地域に伝承される風景写真を分析対象とした景観分析や、写真資料にみられる空間表現の特徴性を検討する上で、「画角」に注目し、分類データベース化の作業に着手するなど、写真資料の学術利用について検討を進めている。(B)地図よる3次元の表現に関する問題については、地籍図や土地台帳を用いた都市空間の復原研究について検討しているほか、絵図や古地図に関する書評を発表している。そして、(C)東洋美術史研究を踏まえた空間表現の問題に関しては、美術史におけるイコノロジーの視点を援用し、京名所を表象する名所浮世絵を事例に、視覚資料の空間表現について、名所絵を構成するイメージソースや景観構造に対する再検討をおこない、京内外の名所間を取り結ぶファクターの存在を明らかにしている。このように2020年度には、計4本の学術論文や2本の書評を公表するなど研究成果の蓄積がみられる。しかし、過去の視覚資料に様々なカタチで描かれる場所や風景をめぐる現状確認や実地調査などのフィールドワークや、博物館・美術館における展示視察や資料調査は新型コロナウイルス感染症の蔓延にともなう閉館措置や、研究機関の出張制限、学会活動の縮小など、調査を進める上で制限される場面もあったのは事実である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2021年度は、過去2年間で進めた各視点(A)、(B)、(C)における研究視点や方法論等の整理分析に対する研究成果の集約、G. Roseの議論を参照しつつ、地理学研究における視覚資料の効果的利用に関する総合的な考察を通じて、今後の指標を見出す作業を進める。 そして、本研究グループが国際学会での研究成果の発表の機会として想定していた、2021年8月にリオデジャネイロ(ブラジル連邦共和国)において開催される予定であった18th International Conference of Historical Geographers(第18回国際歴史地理学会)は、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により開催のめどが立っていないため、研究成果の発表方法を国内での学術シンポジウムの開催へと変更する予定である。 また、次年度は研究分担者全員で2件の資料群に対する資料調査を進める中で、(D)博物館における視覚資料の扱いに関する問題という4つ目の視点に取り組む。その成果の一端は、本研究グループの活動拠点である佛教大学宗教文化ミュージアムにおける展示活動を通じ、その理論的実践を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本国内外での新型コロナウイルス感染症の蔓延にともない、出張調査への規制、アルバイト雇用の自粛に加え、本研究グループが国際学会での研究成果の発表の機会として想定していた、2021年8月にリオデジャネイロ(ブラジル連邦共和国)での18th International Conference of Historical Geographers(第18回国際歴史地理学会)が開催延期されたことで、発表エントリーに必要な英文アブストラクトの翻訳費等の必要経費の出費がなかったために次年度使用額が生じた。この使用額については、次年度予定している資料調査におけるアルバイトの雇用経費や資料の撮影委託費などで使用する予定である。
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