研究課題/領域番号 |
19K01195
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
三木 理史 奈良大学, 文学部, 教授 (60239209)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 物資動員計画 / 長崎惣之助文書 / 回収転用 / 国鉄 / 民鉄 |
研究実績の概要 |
本研究の目的に即して、[課題A]南満州鉄道を中心に日ソ戦に伴う「満洲国」・占領地輸送の変化、[課題B]帝国輸送網の要に位置した内地鉄道輸送の変化、[課題C]両者を結ぶ海上輸送の変化、の3つを課題を設定したが、本年度は[課題B]に重点を置いた。 [課題B]では特に第二次世界大戦末期に進行した国・民鉄に跨がる大規模な鉄軌道休廃止とその資材転用との関係を地域的視点も含めて、その実態を鉄道博物館所蔵『長崎惣之助文書』を主な史料として解明した。物資動員に伴う鉄軌道の休廃止や単線化は全国各地で伝聞としては残っていても、その体系的研究はほぼ皆無であり、本研究によってようやく解明の糸口が見えることになった。明らかになった内容を要約すれば、①1943年7月の国鉄線からはじまって44年度までの回収転用によっても所要量に不足を生じたこと、②物資動員計画が度々見直されたため休廃止も計画的に進まなかったこと、③国鉄線の選定では鋼材輸送距離を考慮して需給地域の近接路線を計画的に選定したこと、④民鉄の選定基準は不明確で国鉄の回収状況を見ながら帳尻を合わせた可能性が高かったこと、などである。それらは帝国日本が制海権を喪失してゆくなかで、限られた資材や機材を如何に円滑に輸送、供給するかという内地鉄道輸送の実状を反映したものであった。この内容の詳細は2021年度中に論文として公表する予定である。 また[課題A]に関わっては「日ソ戦争および戦後の引揚・抑留に関する総合的研究」(基盤研究A/代表者:北海道大学大学院文学研究科教授白木沢旭児)の研究会で、2021年3月に報告を行い、参加者から貴重な指摘や情報を得た。そしてこれまでの申請者の満鉄研究の成果は2022年度研究成果公開促進費を再度申請して公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCOVID-19によって現地調査が大きな制約を受けた。そのなかでまずは[課題a]に関わって、これまでの研究成果の集成に注力した。しかし2021年度の研究成果公開促進費が不採択であったため、21年度はさらなる推敲を重ねて再申請に備える予定である。また白木沢旭児編書(書名等未定)に収録予定の論文の作成に向けての準備も進めてきた。 一方国内機関での調査が中心となる[課題b]について、国立公文書館、鉄道博物館などの首都圏所在機関と、北海道立文書館や福岡共同公文書館、大阪市公文書館などで鉄軌道の休廃止に関わる史資料の収集に努めた。また2019年度以前から収集してきた史資料を用いて、戦時統制撤廃直後に路線休廃止を実施した仙台鉄道に関する研究論文の作成にも尽力し、近日中に公表する予定である。 その結果本研究の主題を成す第二次世界大戦期の戦時輸送について、「研究実績の概要」に記した直接的成果が得られたことに加え、旧国鉄池北線(旧網走本線)に関して北海道開拓期から21世紀の北海道ちほく高原鉄道廃止までの長期間に関する史料について目星をつけることができた。また戦時期にはじまった大阪市電気局の電気軌道廃止について1970年代までの一次史料の収集にも着手した。これらは今後さらに撮影、検討を重ねてゆくことで、より多面的な展開が期待できるものと考えている。 今後はそれらの調査を踏まえて、戦時輸送との関わりのみならず、鉄軌道の休廃止自体についても、より本格的な解明の鍬を入れることで、現代的な公共交通機関の持続可能性にも寄与することが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度もCOVID-19によって海外はもちろん、国内でも依然都道府県境を跨ぐ移動が規制されているため、現地調査には制約が多い。そのため当面公文書館や図書館施設を中心に史資料収集を前倒しで進め、状況を見ながら現地調査を進めたいと考えている。 まずは2020年度に史資料収集を前倒しで進めてきた北海道の十勝地方から北見地方について現地調査を実施し、可能ならば道北の羽幌炭鉱についても調査を行いたい。また北海道立文書館や同図書館の補足調査も適宜実施したい。さらに前倒しの史資料収集は福岡共同公文書館を中心に進める予定である。 2019年度から戦時輸送との関係で鉄軌道廃止に着目して研究を進めてきたが、そのなかで現代的な公共交通機関の持続可能性に関わる問題の発端が戦時輸送にあるとする新たな知見を得ることができた。ところが鉄軌道の休廃止については、近年の状況に関する研究はあっても、それを長期的に検討した研究はほぼないことも判明してきた。そこで今後は鉄軌道休廃止について、より広域かつ長期的な展開を期する必要があると考えるようになった。 一方、[課題C]に関わっては、新たに「20世紀前半の東アジア海域における海上交通の発達と沿岸地域の動向」(基盤研究B/代表者:筑波大学大学院人文社会系教授中西僚太郎)が2021年度から採択されたため、この研究会も活用しながら日本海に重点を置きつつ検討を進めたいと考えている。しかし当面は国内調査のみに限定せざるを得ない。
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