研究課題/領域番号 |
19K01201
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中谷 純江 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (30530034)
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研究分担者 |
大塚 靖 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (00244161)
山本 宗立 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (20528989)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 島嶼 / トランスローカル・コミュニティ / 親族 / 交換 / 婚姻 / 養子 |
研究実績の概要 |
本研究は、ミクロネシア連邦ポンペイ州ピンゲラップ環礁島を主対象とし、移動と島嶼性とコミュニティの3点について考察する。人の移動は、ホーム社会にとって人口減少や高齢化、労働力衰退などのマイナス影響をもつ一方で、人の移動によって生まれる広範なネットワークや情報や成功者による寄付など、新たな資源をもたらす。島嶼社会の居住者と移出者が共有する有形無形の資源がどのようなネットワークの中で所有され、利用・管理され、受け継がれるのかについて調査を行い、移動を通して得られるネットワークや資源を用いてコミュニティを維持、発展させる方途を見出すことを目的とする。 初年度は、ピンゲラップ島で調査を行った。島の主要な財である土地と労働力に注目し、これらの財が交換・贈与される機会としての、相続と婚姻と養取の慣行について分析した。その上で、近年の人口移動と島の過疎化に対処するため、富の再分配制度が新たに出現したことを明らかにし、ピンゲラップ社会が島外移住者も含む資源共有に基づいて維持されていることを論じた。 2020年度は、島外コミュニティの一つ米国ミズーリーを訪問し、人々の親族・婚姻関係、資源共有に関わる相互行為、アイデンティティのあり方、遺伝病(全色盲)の現出について調査する予定であった。しかし、新型コロナ感染症の影響で渡航ができず、1960年代後半に人類学者ハードと遺伝学者(眼科医)のハッセル、モートンがピンゲラップ島で実施した共同調査の報告書等を渉猟した。 2022年度も引き続き、新型コロナ感染症で渡航ができなかった。これまでの研究成果にもとづき、ピンゲラップの養子慣行を人口の不均衡是正や富の再分配制度とみなす視点から、日本やインドの制度との比較を行った。また、鹿児島県の沖永良部島で婚姻・養子の制度に関する調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
米国の移民コミュニティを対象に準備をすすめてきた、親族関係、遺伝病の現出、本島との繋がり、アイデンティティ等についての調査が昨年度に引き続き延期になった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、初年度に第1の課題として、島の生産資源に注目し、「土地」と「労働力」をめぐる交換・贈与のシステムについて明らかにした。次の課題として、これらの資源がどのような範囲の人々によって利用・管理されているか、島外コミュニティを対象に調査を行う必要がある。具体的には、島の居住者と移出者をつなぐ親族・婚姻関係のネットワークを明らかにする。親族や婚姻関係は居住者だけでなく、移住者にとっても非常に大きな意味や役割をもっていることが想定され、具体的な相互行為のあり方を調査する。また、親族婚姻関係は、ピンゲラップ島の遺伝病(全色盲)の現出にも関わっているため、移住の影響について分析する。最後に、第3の課題として、最も基層部分で人々が共有する文化資源、伝統的な価値規範や知識や技能等の伝達についても調査する。グローバル化の中で、人の移動や情報伝達が容易になり、一方では文化の画一化(アメリカ化)が進む中、他方では人々のアイデンティティと結びついた文化資源がコミュニティの存続に果たす役割は強まっている。調査を通して、1.生産 資源の共有、2.親族婚姻関係の共有、3.伝統・慣習・アイデンティティの共有という、3つのレベルで資源共有する人々の間の、地理的空間を越えた相互行為を記述し、人々がこれらの資源をいかに活用して「トランスローカル・コミュニティ」を発展させることができるのかを考察する。今年度こそ、米国の移民社会を対象に第2及び第3の課題に関する調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響で、2020年度と2021年度に予定していた調査が実施できなかったため。2022年度は、可能な限り調査をおこない、計画を遂行する。
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