研究課題/領域番号 |
19K01203
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
綾部 真雄 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (40307111)
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研究分担者 |
白川 千尋 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60319994)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タイ / 先住民 / リス / セキュリティ / 文化振興 / ポリティクス / アクションリサーチ |
研究実績の概要 |
タイ北部B県の先住民・リスの対象村落における文化振興運動の興隆について、セキュリティ(エスニック・セキュリティ)の観点からの研究(短期フィールドワークを含む)を実施した。本研究の最大の特色は、研究代表者がリスの人々と過去30年にわたって築いてきた信頼関係とネットワークを最大限に利用したアクションリサーチ的な色彩を持つことである。すなわち、村民の運動を側面から支援する」のではなく、「村民とともに計画を立案し、ともに運動を進める」ことに重きを置いている。したがって、外側からの観察のみでは窺い知ることのできない深く社会的に文脈化されたセキュリティの諸相を浮かび上がらせることが可能であると考えている。 より具体的には、村内に文化振興センターを建造することを研究代表者から事前に村長および村の役員に提案し、2019年9月のフィールドワーク中に実施した村民会議でその提案が了承され、現時点(2020年5月)までに内装を除くすべての工事がほぼ終了している。帰国後もSNS等で常に現場との連絡を絶やさず、この過程に深く関わり続けたことで、リスの村民たちが意識のなかに内在化させていた文化とセキュリティとの相関を在地的な方法論で客体化しつつあることが見て取れた。引き続きこのセンターを起点とした諸活動の共同立案を続け、人々の文化的セキュリティに向けた意識が惹起される局面、計画遂行の過程で生じる齟齬等に対する慎重な関与と観察を続けていきたい。 なお、フィールドワークの過程でパヤオ県を訪れ、タイにおけるエスニック・ムーブメントの一角を牽引してきたタイ・ル―協会の前理事と文化振興のポリティクスに関する意見交換を行った。また、バンコクの政府機関で実施されたリスの文化振興運動が表彰を受けた授賞式にも関係者として出席し、政府の文化政策がローカルな文化振興に与えうる影響について考察する機会にも恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本務校における業務との関連により、2019年夏期に予定していた3週間程度の調査を12日間に抑えなければならなかったことで、予定していた聞き取りや調査を十全なかたちで実施することがかなわなかった。また、その不足を補うために、3月末に研究分担者と共同で10日間程の再調査を行うことを計画していたものの、COVID-19の影響によりタイへの渡航自体ができなかった。 ただし、対象村における調査助手(村民)を通じてSNSで頻繁にやり取りをすることが可能であった。そうしたなか、日本から文化振興センターの建設にまつわる意見を具申したり、村民とオンラインで意見交換を行う等の工夫により、現地調査の不足をある程度カバーすることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、タイへの入国のみならず、対象村への入村自体が一時的村落封鎖により困難であるため、元来2020年夏期に予定していた調査が実行できる蓋然性は低いと考えている。したがって、夏期調査が難しい場合には、調査時期を2021年の春期(3月)にずらすことを予定している。 仮に今年度中の渡航が出来ない場合には、対象村の人々とのオンライン会議のより大きな規模での実施(現時点ではインフラが完全には整備されていない)、調査助手を通じたアンケートの実施等により現地調査の不足を補いたい。 また、2019年度中は研究分担者との共同調査がかなわなかったため、今年度それが可能になった場合には、分担者の専門領域である医療、疾病対策、保健等の観点からのセキュリティについても研究を進める。対象村の隣村に地域全体を統括する保健所(アナマイ)があるため、同保健所長の協力を要請する予定である(すでにコンタクトは済んでいる)。 タイ少数民族(先住民)研究の文脈において、文化行政と保健行政がクロスする領域での研究はこれまで皆無に等しいため、本研究はそうしたニッチを補う方向での研究に焦点を合わせていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、研究代表者と研究分担者の2名で2019年8月-9月にかけて共同調査を行う予定にしていたが、日程が合わず、代表者のみでの単独調査となった。その後、2020年3月にあらためて共同調査を行う計画を立てたが、COVID-19の影響によりタイに渡航が出来ず、その分の執行予定額が浮いてしまったために余剰が生じた。 2020年度には、状況が許せば秋口以降(11月以降)に調査を再開し、その際に繰り越し分を執行する。可能であれば複数回(2回を予定)調査を実施したいと考えているため、現地調査さえ行えれば、繰り越し分の執行は十分に可能である。
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