研究課題/領域番号 |
19K01207
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研究機関 | 聖心女子大学 |
研究代表者 |
石井 洋子 聖心女子大学, 現代教養学部, 准教授 (30431969)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 移動・越境 / ケニア / ギクユ人女性 / 頭脳流出 / 米国 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、米国およびケニアでのフィールドワークを通じて、頭脳流出に悩むケニアの社会的発展を見据え、とくに90年代半ば以降に急増した在米ギクユ人女性の実態と母国との関わりを明らかにすることにある。本研究を通じて、これまで過小評価されてきた女性移民が母国へ貢献する可能性をグローバル社会・経済への影響力の中で捉えていくことが大目標である。 アフリカ人女性の国際移動は「移民の女性化」と言われる近年に急増し、看護師などの頭脳流出が問題視されるようになった。流出した頭脳を母国へ戻し、自国に役立てようとする帰還政策の試みもなされているが、うまくいっていない。流出「頭脳」とは移住先で子供を育て、働く 「人間」であるため、その政策は彼女達の人生計画と折り合わない場合が多いからである。そして、このような状況の分析的な記述が求められるにも関わらず、従来の移民政策や研究において、女性は非熟練的な出稼ぎ男性の家族として不可視化され、本研究で注目するケニア共和国のギクユ人女性移民の姿を描いた具体的な研究は少ない。本研究は、筆者が米国で収集しつつある在米ギクユ人移民のデータを基に、これまで過小評価されてきた女性達の知識(頭脳)が母国ケニアの未来と交差する可能性を見極め、頭脳流出という現代的問題に人類学的に取り組むことを目的とした。 こうした目標を受け、2020年度は新型コロナウィルスの影響を受けてフィールドワークを行えなかったため、文献研究および映像資料の整理を集中的に行い、2編の写真入り論文(「米国に暮らすケニア人移民の生活実践(1)(2)」)を執筆した。また、日本アフラシア学会でのコメントを行い、数々のウェビナーに参加して研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2020年度は調査地のフィールドワークを行い、「頭脳流出の実態と社会的影響」、「移住史料・ディアスポラ政策調査」「 留守家族・母村住民への聞き取り」「 里帰り移民・留守家族への聞き取り」「元移民への聞き取り」「現地新聞やブログ等の調査」「ナイロビでのディアスポラ会議出席」「ジョモ・ケニヤッタ農工大学でのディスカッション」「国立古文書館等での調査」を行う予定でいた。 また、在米移民とのデータ共有、2015年度に収集したデータの公表と意見交換、留守家族・母村での調査データ公表と意見交換を実施する予定でいたが、新型コロナウィルスの影響で渡航が叶わず、フィールドワークを実施できなかった。 研究の順番を変更し、文献研究や資料整理、論文執筆を行うことで、ある程度の進捗はあった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度こそ、本研究課題の3年度目であるため、フィールドワークでの調査資料を収集したいところであるが、昨年度同様、調査地であるアメリカ合衆国およびケニア共和国でのCOVID-19の収束状況がいまだ見えない。長期調査を実施できるのは夏季休暇中であるが、南半球に位置するアフリカ大陸の8月は気温も低くなり、状況はさらに悪化すると思われる。 フィールドワークが実施できない場合も想定し、2021年度もまた、これまで収集した資料をまとめ合わせて論文執筆に専念すると共に、引き続き郵送やオンラインでやりとりを続けて調査を実施する予定である。2021年9月5日(日)には、渡米したギクユ人移民複数名、母国へ帰国した帰還ギクユ人移民複数名をウェビナーで招聘し、国際開発学科分科会「人間の移動と開発」でオンラインシンポジウムを実施する予定で準備を始めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
先の「現在までの進捗状況」で記載したとおり、予定していたフィールドワークが実施できず、国内移動制限があったために国内のフィールドワークも実施できなかったことから、旅費およびフィールドワーク先で使用を検討していた人件費・謝金の支出がなかった。 今年度こそフィールドワークが実現できると良いと願うが、状況次第である。
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