本研究は、これまで実施した米国およびケニアでの長期滞在型調査の研究成果を基礎として、2000年以降に急増したアメリカ合衆国におけるギクユ人移民女性の実態と母国との関わりについて、米国およびケニアでのフィールドワークを通じて明らかにすることを目的とした。 本研究の大きな目標は、これまで過小評価されてきた女性移民が母国へ貢献する可能性をグローバル社会・経済への影響力の中で捉えていくことにある。カースルズらがかつて指摘した「移民の女性化」という言葉があるが、アフリカ人女性の国際移動もまた、この十数年に急増し、看護師などの頭脳流出が問題視されるようになった。国際機関や政府機関は、流出した頭脳を母国へ戻し、自国に役立てようとする帰還政策の試みもなされているが、うまくいっていない。その理由として、流出「頭脳」とは移住先で子供を育て、働く「人間」であるため、その政策は彼女達の人生計画と折り合わない場合が多いからである。このような状況の分析的な記述が求められるにも関わらず、従来の移民政策や研究において、女性は非熟練的な出稼ぎ男性の家族として不可視化され、本研究で注目するケニア共和国のギクユ人女性移民の姿を描いた具体的な研究は少ない。本研究は、筆者が米国で収集しつつある在米ギクユ人移民のデータを基に、これまで過小評価されてきた女性達の知識(頭脳)が母国ケニアの未来と交差する可能性を見極め、頭脳流出という現代的問題に人類学的に取り組むことを目指した。 最終年度はケニア調査を実施する事が可能となり、移民の母村であるケニア・ムランガカウンティーで報告会を実施し意見交換会を行うことができた。
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