研究課題/領域番号 |
19K01225
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中谷 文美 岡山大学, 文明動態学研究所, 教授 (90288697)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 伝統染織 / 仲介者 / 商品化 / 観光化 / 文化遺産 / 手仕事と機械 / 文化横断的消費 / インドネシア |
研究実績の概要 |
3年目となる2022年度も新型コロナウイルス感染拡大をめぐる状況が好転せず、さらに国内の移動も引き続き制限を受けた。このため、岡山県内外の感染状況や勤務先の移動制限の推移を注視しつつ、日本国内においてアジア地域の伝統染織品の収集・展示をおこなっている博物館(岩立フォークテキスタイルミュージアムほか)を訪問し、可能な範囲での情報・資料収集を実施したほか、洋書を中心に関連文献を収集するにとどまった。国内の調査先としては北海道のアイヌ文化展示施設を複数訪問し、布以外の工芸品の継承や新たな製品展開に関する知見を得た。また、商品開発・即売に携わるソーシャルビジネスの背景などに関する調査も実施した。 上記の研究活動に加え、代表者として進めている共同研究「伝統染織の生産と消費」で提示された事例や分析を踏まえ、在来技術により生産され、使用されてきた伝統染織品の大衆化・民主化を可能にするプリントと、ニッチな市場に向けての高級かつ「本物」イメージに結びつく手織りへの二極化に多様な仲介者(mediators)が果たす役割と影響が明らかになりつつある。伝統的な染織技法の維持・継承のみならず、その対極にあるように見えるプリント技術に着目する意義を認識したことで、今後の調査に新たな視点を導入することができると考えている。また、布以外の工芸品も視野に入れることで、布特有の物質性とそれに起因する生産・消費の特質を明らかにすることをめざしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外への渡航制限及び国内移動の制限などが継続したため、本年度予定していた海外調査も実施することができなかった。そこで前年度に引き続き、博物館、ギャラリー、商品開発・即売業者からの情報収集や文献収集を主体とする研究活動を中心に置かざるをえなかった。ただし国内調査の範囲は、前年度より拡大することができた。 限定的ながら国内調査と文献調査の成果により、論点は明確になりつつあるが、伝統染織の生産者及び地域の消費者に対する影響を明らかにするためには、現地でフィールド調査が不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による各国の出入国管理強化は緩みつつあるため、帰国時の隔離期間などが緩和された状態が続く場合は、インドネシアでのフィールド調査を実施する予定である。ただし、現状でも感染対策は十分に講じる必要があるため、現地の状況がよくわかっており、緊急時の対応も取りやすい地域に調査対象を変更する可能性がある。また、国内の移動は制限がかからなくなっている現状を踏まえ、伝統染織品の生産と消費の現場をつなぐアクター(ファッション・アパレル関係者、NGO、フェアトレード団体等)が多様な文脈で活動する国内事例の調査に引き続き重点を置く。 研究成果公表については、2022年6月開催の日本文化人類学会の研究大会において分科会「手仕事のオーセンティシティ」を組織し、個人発表も行うほか、査読誌2誌に対して論文を投稿予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外渡航によるフィールド調査が計画通り実施できなかったため、その一部は国内調査に振り替えたが、状況改善が見込まれる次年度に向けて海外調査実施を目的とする使用額が生じた。 各種の制限が緩和され、感染予防対策を十分に講じることができる見込みがたった場合には、インドネシアにおけるフィールド調査を実施する予定である。
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