「郊外的空間の拡大」を、今日のグローバルサウスの都市が共通して経験する変容過程を示すキーワードとして設定し、その現象の由来、過程、帰結を、フィリピンの首都メトロマニラの事例から考察した。グローバル資本の主導の下で進展する都市のジェントリフィケーションは、従来の都市スラムの移転、再定住先としての郊外の拡大をもたらした。そこにおいて人々は、従来の都市コミュニティ、特にインフォーマル居住区における様々な社会性から切断され、整然とクラスター化された再定住地空間において、「アントレプレナーシップ」を養成し、「生産的活動」と「市民性」を内面化することを要請される。そのような郊外空間においてこそ、ヴァナキュラーな社会性と市民社会的価値の折衝、相互浸透、混交によって、新たな公共性としての「ヴァナキュラー市民社会」の広がりが見出されるであろうという仮説のもとに、研究を進めた。コロナ禍のため、最終年度のフィリピン渡航は不可能になり、フィールドワークによる資料収集は不可能であった。その代わりに、二次資料などによって、マニラ近郊特にブラカン州やケソン州などの郊外において、再定住後のどのような生活実践が展開しているのかの見通しを得た。それらの成果は、主に下記の論文にまとめられた。関恒樹「ポスト権威主義体制期フィリピンにおける新たな社会性と都市統治-スラム再定住政策を事例に」、越智・関・長坂・松井編『グローバリゼーションとつながりの人類学』(七月社)、103-131頁。最大の成果は、「郊外化」と都市の統治についての比較研究のための理論的視点を精緻化することが出来た点である。
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