研究課題/領域番号 |
19K01232
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山内 健治 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (60254728)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 米軍基地 / 聖地 / 強制移転 / 共同体研究 / 記憶 / 文化の再生 |
研究実績の概要 |
2019年8月より沖縄県中頭郡北谷町内にある下勢頭郷友会の12名のメンバーにインタビュー調査を行った。この郷友会は米軍基地であり嘉手納ベースの居住区に戦前集落があり、戦後移転した事例である。この郷友会の位置する北谷町上勢頭地区の自治会へのインタビュー調査も同時に実施した。郷友会の会館に保存されている元集落のメモリアムとしての文化財(旧集落の地図・村落風景写真・絵画・以前使用していた農具等)について撮影、データベース化を行った。さらに郷友会により年1回実施されている故郷探訪ツアー(基地内の元集落へのバスツアー)に同乗し旧集落跡地に点在する井戸・聖地・集会場の保存整備の状況を視察しその位置と内容をデータベース化し地図化した。この郷友会の調査を通うじて人々の記憶における「景観」の記録が重要であると認識し「景観の記録と記憶」を新たなテーマとして今後の調査課題に加えた。 景観と記録という観点から、沖縄県読谷村の強制移転集落である喜名地区・楚辺地区で人々の保存する旧集落の写真・地図・文化財のアーカイブを開始すると同時に、聞き取りによる旧集落の地図作成を開始し旧井戸・墓・聖地・堤防跡等の位置確認作業を実施した。また公文書の記録・古文書・景観写真をデータベース化し、その資料を基礎に住民への元集落の記憶に関するインタビュー調査を実施した。さらに必要な場合は、沖縄県読谷村役場教育委員会の協力を得て村内5集落の景観(山・丘・川等)の空撮を実施した。これらの作業は2019年の秋期までに終え、データの総合比較を実施した。特に2019年度の研究においては、強制移転後、70年以上を経過する元集落の住人とその次世代への記憶伝承において、風景の記憶(井戸・川・丘等)が重要であると同時に各個別の家族において異なる「景観の記憶と記録」があり、また次世代への継承において重要なファクターとなっていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は事前に調査地との関係機関と連携が取れていたので、米軍基地内および基地の周辺に点在する文化財(聖地・墓・記念碑)関連の資料取集は順調に進捗した。具体的には沖縄県読谷村村史編纂室、北谷町教育委員会の協力により基地内の文化財の保存状況を詳細に取集すrことが可能となった。さらに基地周辺に関するコミュニティのネットワーク課題について、沖縄県中部地区に点在する郷友会に12団体とのアポイントが取れ基本的な予備調査を終了することができた。さらに沖縄県の軍用地主会との連絡も取れ基地内のいわゆる黙認耕作地の資料が包括的に入手可能となった。これらの研究課題に関連する諸団体の協力により、郷友会の会館に保存されている元集落の文化財(旧集落の地図・村落風景写真・絵画・以前使用していた農具等)について撮影、聞き取り調査が計画以上に可能となり、包括的な比較資料を網羅することができた。さらに郷友会により実施されている故郷探訪ツアー(基地内の元集落へのバスツアー)に参加し旧集落跡地に点在する井戸・聖地・集会場の保存整備の状況を視察しその位置と内容をデータベース化し地図化した。2019年度に得られたこれら資料は、次年度以降のよりインテンシブな調査・分析において極めて有効であると自己点検・評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究経過において基地周辺および強制移転村のコミュニティーの核に人々のもつ「景観の記憶」が重要なファクターであると仮説的に分析した。とりわけ基地内に元集落全体を接収された村落では、郷友会の会館に保存されている元集落のメモリアムとしての文化財(旧集落の地図・村落風景写真・絵画・以前使用していた農具等)が現在の構成員のネットワーク維持に重要な文化要素であった。また次世代へのアイデンティティ形成のツールともなっていた。調査において旧集落の写真等の資料を通じて聖地・井戸・川跡等をプロットした地図をインフォマンと共に作成することが本研究課題の実行にあたり有効であることを確認した。2019年度は読谷村及び北谷町内の計7地点の字で実施したが今後はより広範なエリアでの字の資料を網羅し比較検討する必要がある。さらに対象とする共同体アイデンティティの核として「景観の記憶」が重要であるとして研究・分析を進めるにあたり、国内外の「景観人類学」に関わる文献を参照する必要があると認識している。 2019年度は、調査そのものは順調に推移したが、2020年度より新型コロナ対策関連により沖縄県内では相次いでイベント・行事を中止している。その範囲は研究代表者が調査対象としている沖縄本島中部地区の字レベルも同様で2020年の6月現在までは十分な調査は不可能となってきた。今後も多くの年中行事の中止・延期が予想される。今後は沖縄県読谷村村史編纂室、北谷町教育委員会との研究協力をより強固にし文献・写真資料等のデータ送付依頼により基地周辺の文化財の保存状況の観察をすることに調査方法の重点を変更する可能性がある。
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