研究課題/領域番号 |
19K01235
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
浅野 久枝 京都精華大学, 人文学部, 講師 (20700008)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小芝居 / 中芝居 / 歌舞伎 / 市川市蔵劇団 / 細川興行 / 岩井小紫 / 歌舞伎愛好家同人誌『劇友』 / 女役者 |
研究実績の概要 |
前年度は歌舞伎専門で活動した中・小芝居の活動実態、演出の特徴などを元市川市蔵劇団の役者・岩井小紫師などからの聞き取りから追求したが、2022年度は資料調査の中で、市川市蔵劇団のライバル的劇団・細川興行の劇評を発見することができた。公刊されていない回覧形式同人誌の肉筆記事であったため、遺族の了解を得て翻刻し「劇評から見る中芝居劇団 細川興行の演技の実態―同人誌『劇友』誌上「歌舞伎劇卅七種を観る 小池橇歌」翻刻―」『同志社女子大学大学院 文学研究科紀要』第23号を発表した。これにより中・小芝居独特の演出の実態がより具体的に明らかになった。またこれまでの聞き取りの中で小紫師以外の女歌舞伎役者の存在は確認していたが、研究史上、昭和期に活躍した女歌舞伎役者は注目されていなかった。明治期以降昭和50年までの女歌舞伎役者についての資料の収集と、遺族からの聞取り調査から「昭和期まで活躍した女性歌舞伎役者たち―女役者の動向と消長―」『京都精華大学紀要』第56号を発表した。また中・小芝居役者の芸名は「適当に付けている」という常識があったが、聞き取りや芸談などから、彼らの芸名命名や襲名の仕来りについて明らかにし、「小芝居・中芝居役者の芸名継承と歌舞伎役者岩井小紫の名跡について」『東京都立大学人文科学研究科 人文学報』第519-2号(社会人類学教室16)を発表した。 以上、各地の地芝居の振付師として活躍してきた中・小芝居役者の持つ演技技術の実態や、振付師として活躍する女役者の系譜などを明らかにできたことは、地芝居の特徴や継承を考える上で意義がある。特に小紫師は長浜三役修業塾の中で女性振付師を複数育成している。弟子の女振付師たちが中・小芝居の芸を伝え始めている現在、小紫師に対する調査を今後とも進めると同時に、長浜三役修業塾振付部の活動実態にも注目し、女振付師たちの芸の伝承を追求していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍で各地の地芝居興行が復活しつつあったが、調査予定を組んでいた調査地の公演が突如中止になったり、また、予定していたにもかかわらず自身がコロナに罹患したこともあり、予定していた調査が実施できなかった。また、コロナ禍で面会できない高齢の情報提供者たちが複数鬼籍に入られ、大変残念なことに情報を得られなくなったこともある。 また、母の認知症が進み、介護のために時間を取られる状態になっている。そのため、現地調査がなかなか進んでいない。本年は兵庫県多可町や北海道函館市の地芝居の調査に赴きたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
歌舞伎専門で地方興行していた中芝居・小芝居の資料は極めて少ない。かなり努力して資料を収集しつつあるが、今後ともその努力をしていきたい。地方新聞からの情報収集のため、各地の図書館にも調査に赴く予定である。自身の調査のみならず、近代歌舞伎や大衆演劇研究者とも連携を深め、情報交換の努力をしたいと考えている。 また、市川市蔵劇団の活動実態や中心メンバーについてはかなり明らかにすることができてきたと思うが、その周辺の小芝居・中芝居役者の系譜や演技などについては明らかでない部分がまだまだ多い。引き続き興行パンフレットなどを収集して、演技や活動の実態を明らかにしていきたい。 また、中・小芝居役者が指導してきた地芝居において、どのような演目がどのような演出で公演されているかを調査し、大歌舞伎とは異なる歌舞伎が各地で伝承されている実態を明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で調査対象の祭礼が中止(外部者を入れない)になったり、調査対象者が体調不良により調査が実施できなかったり、調査者自身が調査予定日にコロナに罹患したり、また、母の介護に時間を取られることもあり、現地調査が十分に出来なかったために、調査が大幅に遅れているため。
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