本研究では、12世紀以降に法の学問化が進んだヨーロッパにおける「法学と実務の相互影響」をテーマとして掲げており、その一例として予防法学に特化した文献群(15・16世紀)の検討の完了に向けた作業を継続した。前年度までに判明した人文主義法学との関連性、「非道徳的・脱法的手法の指南」という伝統的評価の見直しに加え、具体的な内容レベルでの分析を進めた。予防法学文献中の各々の内容は、多くの場合その著者たちのオリジナルではなく、バルトルスやバルドゥスなど同時代の著名な法学者たちの著作からある程度の修正――いささか「濫用」気味の場合を含め――を施した形で採録されたものである。それらが一つの独立した文献にまとめられ広く流布したことと合わせ、個々の事例に即した戦術指南は「極端・堕落した」現象としてではなく、中世法学の「リスクの最小化を目指す」一般的特徴として正面から位置付けるべきであると考えられる。本研究で判明した内容については、来年度開催の国際学会(エントリー済み)にて公表予定である。 本研究のテーマ「法学と実務の相互影響」については、前課題にて近代日本の民事訴訟法とその実務について検討を加えたことが大きな契機となっている。この内容について刊行した研究代表者の単著につき、ドイツ語に全訳のうえドイツにて出版する企画が進行中であり、本年度はかなりの時間をそのための作業に振り向けた。わが民事訴訟法はドイツ法の影響が今日にいたるまで大きく、日本法について紹介する独語での単行論文は一定数存在するが、ドイツからの法継受とその実務について独語の単著での公刊は極めてまれと思われ、日独比較法の観点からも学界に対する大きな貢献になると思われる。現時点ですでに下訳が完成し、海外出張によりドイツ側と出版に向けた調整を行い原稿のチェックと修正が進められており、来年度以降の刊行に向けて作業を続けることになる。
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