研究課題/領域番号 |
19K01244
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山口 道弘 九州大学, 法学研究院, 准教授 (60638039)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 牧健二 / 法科派 / 文科派 / 文化史 / 新見吉治 / 知行論争 / 中華民国の法典編纂 / 戦後の邪馬台国研究 |
研究実績の概要 |
中田薫と併称される法制史家・牧健二を主題として、法制史研究法における、いわゆる法科派文科派の対立について、その発生時に遡って検討を加えた。その結果、以下の諸点が明らかになった。 第1に、いわゆる文科派なるものは、その当時の国史学界で一般化していたところの、文化史を方法論として奉ずる法制史家の謂いであることを、改めて確認した。ここで謂う文化史とは、ある時代の事実を解釈するためには、必ず、その同時代の観念に依らねばならない、とする、歴史学の方法論を指す。 しかし、第2に、重要なことであるが、法科派と文科派との対立は、方法として文化史を奉じない者と、奉ずる者との対立では、なかった、ということである。いわゆる法科派に属する法制史家である、帝大の宮崎道三郎や中田薫は、文化史を奉じないどころか、寧ろ積極的に文化史的方法を宣伝し、実践していたのであった。実のところ、法科派文科派の対立は、同じ文化史的方法を奉ずる者の間での対立であり、詳しくいえば、その方法の適用を概念レヴェルに止めるか(法科派)、それとも、歴史叙述の体系にまで及ぼすか(文科派)、の対立であった。 この対立は、第3に、法学界における、自由法学と社会法学との対立、人に着目すれば、田中耕太郎=杉山直二郎の系統と、末弘厳太郎とその門下との対立の、法制史学版でもあった。現に、中華民国の法典編纂を巡り、自由法学者=法科派と、社会法学者=文科派とは、鋭く対立することとなったのである。 以上に加え、第5に、牧健二の学問形成、就中、その知行制理解における、師・新見吉治から蒙った絶大な影響と、それにも関わらず存する巻の知行制理解の特質を明らかにし、その特質の知行論争に至るまでの継続したこと、及び、第6に、牧の戦後の邪馬台国研究が、戦前来の研究プログラムの延長上にあったこと、をも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度より外部への出張を要する研究計画を変更して、在福のまま行いうる、中田薫とその周辺の研究者に関する史学史研究を行っている。2021年度は、その変更後の計画に従い、中田に対抗した文科派の牧健二につき、大正から昭和戦後に至るまで、その全貌を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までに昭和戦後までの法制史学史の大綱を纏め得たので、2022年度は時代を遡り、宮崎や中田以前、乃ち、明治期の法制史学(国制史)に就いて、研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張旅費が発生しなかったために、次年度使用額が生じた。この額は、坪内逍遙の書簡集を購入する経費に充てる予定である。
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