研究課題/領域番号 |
19K01245
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西川 洋一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (00114596)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ民主共和国 / 国制史 / 中世史 / ミュラー=メルテンス / バーベルスベルク会議 |
研究実績の概要 |
(1)COVID-19蔓延のために予定を変更して昨年度から続けていた、Eckard Mueller-Mertensの中世国家史研究の展開を同時代のドイツ社会主義統一党(SED)の学問政策の変動との関連で分析する作業を終了し、2回連載全154ページの論文が22年2月と4月に公刊された。この中で、SEDによる1950年代の歴史学の強権的なマルクス・レーニン主義化、1968年8月のワルシャワ条約機構軍のチェコスロヴァキア侵攻、ドイツ連邦共和国の「東方政策」に対応するためのドイツ民主共和国(DDR)における「社会主義的ナツィオーン」論などの重要な政治的展開がDDR歴史学に与えた一般的影響の中で、ミュラー・メルテンスによるドイツ中世国家に関する研究がいかに展開したかの分析を精緻化することができた。ナツィオーンの価値と連続性を強固に信じていたにもかかわらず、その研究はナツィオーンの実体化やその始源性の観念とは無縁で、むしろナツィオーンの成立を主として政治的要因による共属意識の成立と結びつける、当時の連邦共和国の最新学説(R. Wenskus等)と同じ方向を向いていると言える。また、ソヴィエト支配の崩壊の兆しが見える以前から、かつて意識的に捨象していた中世の「帝国」の次元に視点を移している点も、著者の政治的な立場とその歴史研究の成果との間の複雑な関係を示している。 (2)法学の政治的操縦に関しては、公刊史資料とすでに調査した文書にもとづいてある程度作業を進めることのできる1958年4月のバーベルスベルク会議の議事と「人民裁判官」制度の形成との検討を再開した。いずれについても、従来の研究が政治過程とその直接的影響・効果に論点を絞っていたのに対して、史料の文章表現にみられるSEDの法、法学、法律家に関するイメージの析出という「文化史」的アプローチを用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続いて今年度もCOVID-19のためにドイツでの史料調査ができなかったが、そのために改めた研究計画を順調に進め、法学とともに「国家を担う」(staatstragend)学問として重視され、それゆえに政治的誘導・操縦の対象であった歴史学に関してまとまった研究を行い、その一部を発表することができた。またバーベルスベルク会議に関する研究も小論としてほぼまとめることができた。「人民裁判官」の研究は、連載中の大きな論文の一部なので、更に作業を続ける。
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今後の研究の推進方策 |
今年度こそはドイツでの史料調査を行ない、「司法の民主化」の研究を完成させたい。人民裁判官制度の形成は、同時に法学教育の抜本的改革をも意味するので、本研究課題において中心的な意味を有することは言うまでもない。さらに未だ研究が十分に進められていないバーベルスベルク会議の前後におけるSEDの法学政策に対する政策について、すでに収集した史料に加えて、新たに発見した問題点に関する史料を調査する。とりわけ、1956年にやはりバーベルスベルクで開催された法学に関する会議の1958年会議に対して有した意義の問題、及び58年会議の成果の実施における中央委員会内部の対立に焦点を当てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19蔓延のため、比較的長期のものを予定していたドイツでの史料調査ができなかったため。この調査は研究遂行のために不可欠なので、2022年度に廻し、史料調査を行なう。
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