研究実績の概要 |
当該年度の主な研究課題は次の3点である。(Ⅰ)ドイツの城塞支配権(城主権力)はフランスのシャテルニー(城主支配権)と同質的な罰令権力(城主自身の荘園と同時に、これを超えて他の領主の荘園等に対しても行使された権力。裁判権と軍隊動員権がその典型)ではないか,(Ⅱ)11・2世紀ドイツの城塞支配権の形成は、それ以前の領主直営地型荘園制から地代荘園制への転換に対処するために、城主=領主が新たに城塞を中心とするアムトAmt(管轄区)に数多の地代荘園を整理統合・再編成した結果誕生したのではないか,(Ⅲ)城塞支配権は中世都市と共に、13世紀中葉以後に発展する領国(ラントLand)の地方行政組織(アムト制)の基礎とされたのではないか。 具体的な研究対象として,1180年から1918年までドイツのバイエルンの支配者として君臨したヴィッテルスバッハ家の諸城塞を取り上げ、関連史料と文献の渉猟と収集を通じて,その解読と検討に努め、上記の課題の究明に取り組んだ。またこの家系の城塞の中で最も初期のものとして、11・12世紀に建設されたシャイアン、ヴィッテルスバッハ、ダハウ、ヴァライ、ハイムブルク、ヴァルテンベルク、ブルクレンゲンフェルト、ケールハイム、ファルケンベルクの9つの城塞を選び出した。その方法は、この初期に城主たるヴィッテルスバッハ家が城塞の周囲で保持した権利権益を史料から探り出し、その結果を、この家系が領邦君主として初めて作成させた地方行政組織(アムト)の徴税台帳(1230年頃)から判明する権利権益と突き合わせることである。 その成果、上記ヴィッテルスバッハ家の諸城塞の周囲の領域は城塞支配権を構成し、その基礎の上に、徴税台帳に記された地方行政組織が出来上がったことを明らかにすることができた。上記の研究課題(Ⅰ),(Ⅱ),(Ⅲ)を解明することができる見通しが確実に得られたといえる。
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