研究課題/領域番号 |
19K01246
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
櫻井 利夫 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (80170645)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ中世盛期・後期 / 城塞支配権の発展 / 城塞支配権発展の歴史的意義 / シャテルニー / 教会フォークタイ / 罰令権力 |
研究実績の概要 |
先ず研究動向に関し、日本でもドイツでも、史料の伝承状況の不都合により、そもそもドイツ中世の城塞支配権に関する研究はほとんど進展していない研究上の空隙をなしていることを明らかにした。したがって、申請者が研究対象とするバイエルンの城塞支配権に関する研究もほぼ皆無といえる状況であることも明らかにした。 さらに、フランスのシャテルニーchatellenie(城主支配権、城主領、直轄領とその他の罰令権からなる複合体)研究の嚆矢と謳われるG・デュビイのシャテルニー概念には、フランスの最近の研究傾向に即して見ても、荘園領主権が含む罰令権的性格を無視しているという欠陥があることも究明した。 ドイツの中世城塞成立の古典期(11世紀後半-13世紀)について、特にその初期(11世紀後半-12世紀初期)にすでに城塞の周囲に横たわる城主の支配権を、フランス型のシャテルニーとして把握しうることを究明すべく、1180年以降バイエルンに君臨したヴィッテルスバッハ家の最初期の城塞シャイアンを取り上げて研究した。その結果、この家系は城塞の周囲で種々の直轄的荘園のほかに、複数の家修道院の所領とその他の教会修道院領に対し守護職(教会フォークト)として教会フォークタイ(教会守護職の権力)を行使したことが明らかとなった。この教会フォークタイは正にヴィッテルスバッハ家が自家の直轄領を超えて行使する罰令権力、換言すれば裁判権や経済的な強制権力であり、したがって、我々はシャイアン城塞の周囲に横たわるこの支配権の総体を城塞支配権=シャテルニーとして把握できることが明らかとなった。シャイアンの城塞支配権はその後13世紀中葉以降にヴィッテルスバッハ家の地方行政組織の一翼を担ったことも明らかとなった。この研究成果はシャイアン城塞以外のこの家系の城塞についても、解明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヴィッテルスバッハ家がフォークタイを行使する対象となった家修道院とはバイリッシュツェル、フィッシュバッハウ、アイゼンホーフェン、及び修道院に転換された後のシャアイアンである。その他の教会領とは、例えばフライジング司教教会領、フライジング司教座聖堂参事会領、キューバッハ修道院領、ヴァイエンシュテーファン修道院領である。 申請者はこれらの教会修道院の所領はどこにあったのか、その場所を、所領の売買、交換、譲渡、質入等種々の証書史料に基づいて可能な限り解明することに努めた。換言すれば、ヴィッテルスバッハ家のフォークタイ権力が行使された村落を明らかにすることに成功した。 差当たり、城塞シャイアンの城塞支配権の具体的な内部構造に関する研究成果を公表するために論文を執筆しつつあり、所属大学の紀要に投稿する予定である。 以上の事情が、現在までの進捗状況についての判断の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
ヴィッテルスバッハ家は12世紀中葉にすでにバイエルン大公領で5つの支配複合体を有し、発展可能性をもつ重要な地位を取得していた。この地位を構築するために、この家系はその競争者たちよりも効果的に当時最新の手段を投入し、また領域の把握とここへの浸透に適合的な新種の支配構造を発展させていた。ヴィッテルスバッハ家の権力複合体は、[1]城塞、[2]裁判権を伴うフォークタイと[3]従士団という三つの柱に基礎を置いていた。上記5つの支配複合体とは、(1)シャイアンとヴィッテルスバッハの両城塞、9つのフォークタイ(とりわけフライジング、キューバッハ、シャイエアン、ガイゼンフェルト)とほぼ30のMn家系が存在した地域、(2)ヴァルテンベルク城塞と10の家人家系を具えたイーザル川の右岸、第三の所領複合体は1115年にバイエルンのノルトガウで最も有力な貴族家系、(3)レンゲンフェルト城塞、家修道院エンスドルフに対するフォークタイ及び10のk家人家系から成る地域、(4)ケールハイム城塞を中心とするドナウ河流域、(5)ファルケンベルク城塞を中心としエバースベルク修道院に対するフォークタイを含む領域である。 以上城塞を中心とする5つの支配複合体を検討対象とし、併せてこれらが後の地方行政組織(アムト制または裁判区)へとどのように発展していくのかを考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請書の提出時点で他大学図書館に出張して文献の調査・収集に当たることを計画していたが、コロナ禍のために、ほとんどの図書館が学外からの利用者を受け入れないために、出張することができなかった。次年度使用額は図書の購入に充当することを計画している。
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