今年度は、社会契約論を基礎とした革命期の法的構成が19世紀を通じて変化していく様相を考察したが、これによって以下の点が明らかにされた。 前年度までの研究で、革命期の法的主体が自立した意思を持った存在として構成され、そのことが奉公人など自らの意思を持たないものを法的主体として認められないことにつながったことが明らかにされた。19世紀の労働運動などは、革命期に排除された主体を法的主体として承認することを求め、世紀中頃から徐々にこうした存在が法的主体として認められるようになるが、その際には、革命期に考えられたような「自立した意思」を基礎にすることは困難となる。 世紀末の連帯論では、法的主体として承認されるために実際に自立した意思を持っていることは必ずしも前提とされず、代わって、人間は社会の中で自らの意思に関わらず、すでに相互に依存した存在として捉えられるようになる。ここでは自らの意思によらず。自分が社会に負っている負債から法的な義務が生じてくると考えられる。こうした関係は「準契約」として整理され、現実の合意はなくとも、構成員が自由かつ平等な条件で協議した場合に到達するであろう仮想的な合意が想定され、これによって法的に強制力を持った措置を取ることが可能となる。 他方で、革命期の法律もルソー的な一般意志の表明であると考えられており、これもまた現実の意思の一致ではないという点でこうした連帯論との共通性を持っていることを考えると、革命期の法律が現実の意思を基盤としていると考えることはミスリーディングでもある。世紀末の連帯論は社会法の基礎となるが、革命期の古典的自由主義の法律との違いを強調するよりも、その共通性を考えることで近代法の基本的な特徴を捉えることができる。
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