研究課題/領域番号 |
19K01250
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
安高 啓明 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (30548889)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 刑法草書 / 佐賀藩 / 熊本藩 / 徒刑 / 徒罪 / 懲役 |
研究実績の概要 |
熊本藩刑法草書の伝播過程をみていくにあたり、佐賀藩を対象にした。佐賀藩鍋島文庫には、刑法草書の写本が残されており、その伝播した理由も、熊本藩校時習館に入学した佐賀藩士、有識者との交流を通じたものと考えられている。これにより刑法草書の写本からどの程度正確に伝わっていったのかを確認することができ、先行研究の驥尾にふしながらその過程についても明らかにできる。詳細な分析については、今後、分析していきたいと考えている。 そして、刑法草書の内容が伝わった佐賀藩で実際に運用されていた状況を、熊本藩で創始されたという徒刑を通じて検証した。熊本藩徒刑は、佐賀藩で徒罪という名称で行なわれており、開始された時期、刑罰の内容、適用する罪状など、佐賀藩法制史料の「徒刑之覚」などから明らかにすることができた。熊本藩を模範にしていることは明らかであるものの、中国明律を参考にしたと述べていたり、幕府法には規定されていない佐賀藩の刑罰であるという、独自性が協調されている。ここに、佐賀藩と熊本藩という近隣藩ゆえの「藩威」にも通じる概念を見出すことができる。 実際に、佐賀藩が創設した徒罪は、明律の規定より刑罰の適用範囲が広く、高度化した施行細則になっていることが確認できた。その一方で、熊本藩の徒刑とも年期などに違いがあった。しかし、教誨指導を行なったり、一時金を支給するなど、徒刑の基本的政策は一致している。つまり、刑政としての本質は伝播しており、運用形態に差異があったと理解できる。佐賀藩は独自性を主張する一方で、大いに熊本藩刑法に学んでいる実態も確認することができた。刑法草書の伝播、そして運用といった内実を加味した「法の伝播」が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
刑法草書の伝播過程をみていくにあたり、大名家資料の調査を行なわなくてはならないが、出張制限もあり、現在、佐賀藩のみに留まっている。しかし、佐賀藩を特化して調べる期間に充てられたため当初予定より深い内容を見出すことができた。調査対象地域の学芸員等に協力を仰ぎながら進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き熊本藩刑法草書の変遷を考察していく。本年度は、刑法草書の最終形と評価される明治の「刑法草書」(国会図書館蔵)の分析を中心に行っていく。また、他藩への伝播状況については、感染状況とを鑑みながら九州(福岡・鹿児島・大分)を中心に調査していく予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた出張調査を行なうことができなかった。翻刻を本格化していくための費用に充当していきたいと考えている。
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