研究課題/領域番号 |
19K01253
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
服部 寛 南山大学, 法学部, 准教授 (30610175)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 法哲学 / 人間の尊厳 / 尊厳 / 人権 |
研究実績の概要 |
2年目にあたる2020年度は、新型コロナウイルス感染症の国内外にわたる大きな影響のために、本研究も、小さからぬ支障が生じ、予定していた研究計画について、大幅な見直しを強られることとなった。1年目に行った国際法哲学社会哲学連合第29回世界大会での報告の公表に力を注いで、今年度に、ARSP Beiheft 165(Ulfrid Neumann / Paul Tiedemann / Shing-I Liu (Hg.)"Menschenwuerde ohne Metaphysik")に公表されたことが大きな収穫である。他面で、当初予定の、von der Pfordten氏の著書や講演に関わる論稿の訳と検討にも従事したが、コロナ禍における研究・教育環境の激変と制約により、当初の予定に見込まれていた進捗に至ることができていない。目下、態勢を整え直し、2年目の遅れを取り戻そうと試みている。 本研究の関心は、「尊厳」概念の各論的局面へと広げ・深められてもいる。日本の(人間の)「尊厳」概念を捉え直すにあたり、戦前(・戦時下)における《神宮・皇室の尊厳》(治安維持法1941年改正第7条など)を梃子に、この概念にまつわる諸論点について、検討を行っている。この方向で、神社における「森厳」概念と「稜威」論との関係如何という問いを立てて、人間「以外」について尊厳を観念する思想の分析を通じて、「尊厳」概念それじたいが持つ本質的な意味・意義について、思想(史)的な検討の足がかりを獲得しようとして、戦時法研究会にて報告を行った。この方向を、国体論に関する戦前・戦時~現在に至るまでの議論をさらに深めていくことが、今後の課題として重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の広がりと長引く混乱は、本研究の進捗にとっても、マイナスの影響を及ぼしている。本研究ひいてはその前提となる申請者自身の生活や仕事にかかりかねないほどの行動と時間・エネルギーの制約もあり、思うように労力を充てることが出来ていない。資料収集については、国内外の研究機関等への一次文献などの調査・収集を計画していたが、まったくといってよいほど、県をまたぐ・こえた移動が行えない。他方、世界的なコロナ禍の混乱の中で、「人間の尊厳」とは何かについて、いわば「(法)哲学」的に考えさせられるところは少なくないが、この点に関する申請者自らの哲学的な思索についてまとめ、また他の学術的な見解との関連付けという作業については、時間と労力の制約上、これに取り組むということは行えていない。本研究に限ったことではないと思われるが、個人/社会/国家/国際社会の各次元において、コロナ禍によりあぶり出された問題は、あるいは、研究の検討の前提そのものに揺さぶりをかけるものでもあろう。例えば、「人間の尊厳」の概念を構成する要素としてこれまで語られてきた、自己決定・自律、品格・品位などは、どれも重要なものではあるが、それらだけにつきない、人間存在にとり本質的な問題に肉薄し、勝義の「人間の尊厳」とは何かについての、多くの見解を改めて洗い直すという必要性も、感じさせるところである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定として、3年次目には、研究課題に関する成果発表が主に予定されていたが、2年次までに予定されていた研究内容・計画を急ぎ実行し、公表の道筋をつけることを焦眉の課題としたい。総論にかかるところとしては、人間の尊厳概念に関するvon der Pfordten説および内外の最近の見解について検討をはかり、同概念の基本的な視座を盤石なものとしたい。とりわけ、日本の「尊厳」概念については、昨今の研究状況においても、十分なものとは言い難いところがあり、とりわけ戦前・戦時における尊厳概念に関して、これまでの本研究の成果をもとに、担い手としての「人間」に定位した「人間の尊厳」論の日本での可能性と法的概念としての定着と彫琢形成への道筋をつけたい。2年次に新たに切り拓いた「森厳」論から、自然および神を担い手とした尊厳論について、日本の議論をもとに、比較(法)思想へと視線を広げたいと考えている。また、医事法や生命倫理にかかわる「生命の尊厳」論についても、国内外の議論状況に注視し、検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の間ずっと、新型コロナウイルス感染症の国内/国外の状況を見通すことができず、あるいは感染状況が改善した折を期待して、内外の研究機関への資料収集や、von der Pfordten氏の招聘に備え、支出を見合わせる必要があった。しかし、数度の緊急事態宣言等の発令をはじめ、移動の制約を受けるなど、思うように支出も行えなかった。邦語・洋語の文献も広く収集を試みているが、この点でも制約を受けている。2021年度に充実した成果発表のために、研究環境の整備も含め、合理的な支出を行いたい。
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