研究課題/領域番号 |
19K01256
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
小倉 宗 関西大学, 文学部, 教授 (40602107)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幕府 / 上方 / 機構 / 法令 / 裁判 |
研究実績の概要 |
本研究は、関東とならぶ拠点地域であった江戸時代(日本近世)の上方において、①幕府がどのような政治機構を作りあげ、②そこでの法令と裁判がどのような内容や特徴をもっていたのかを学術的に問うものである。 2020年度の成果は次の通り。 (1)2020年7月に刊行された関西大学東西学術研究所内泊園記念会の学術誌『泊園』第59号において「江戸幕府の上方(かみがた)政治―享保期の大坂を中心に―」と題する講演録を執筆した。そこでは、2019年10月に同研究所の第59回泊園記念講座で行った講演の記録を全面的に再検討・改稿し、享保期の大坂を主なフィールドに、上方における幕府の政治や法のしくみとその特徴を論じた。 (2)2021年2月に刊行された国史学会の学術誌『国史学』第232号において「高塩 博著『江戸幕府法の基礎的研究《論考篇・史料篇》』」と題する書評を執筆した。そこでは、8代将軍徳川吉宗の政権以降に整備・確立される幕府法の編纂過程とその内容・特徴を実証的かつ体系的に明らかにした高塩博氏の近著について、その成果や意義を指摘し、疑問点や今後への期待を述べた。 (3)2021年3月に刊行された関西大学文学会の学術誌『関西大学文学論集』第70巻第4号において「「上方八ヶ国手限取計留」(一)―江戸中後期の上方・大津代官に関する史料の紹介と分析―」と題する論文を執筆した。そこでは、江戸時代の中後期に幕府の大津代官が作成した裁判・行政に関する史料「上方八ヶ国手限取計留」について解説するとともに、その前半部分を翻刻(活字化)・紹介した。 (4)2020年12月にオンラインで開催された神戸大学経済経営研究所の兼松セミナー(「紛争と秩序」研究会共催)において「上方からみた江戸幕府の機構と支配」と題する報告を行った。そこでは、上方を主な事例に、支配(行政や裁判)の側面から、幕府の政治機構の構造と特質を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的・方法としては、次の4つを柱としている。 ①日本各地の所蔵機関を訪問し、幕府に関する原史料(古文書)と刊行史料を幅広く調査・収集・分析することにより、転換期であった江戸時代の中期を中心に、上方における幕府の政治機構や法令・裁判のあり方とその歴史的な展開を実証的に明らかにする。②収集した原史料のうち未刊行で重要なものを翻刻(活字化)・紹介する。③研究の成果は、日本史学と法制史学の2つの分野における学会や研究会で報告するとともに、学術論文として発表する。④自治体や大学における講座・シンポジウムなどの機会をとらえ、一般の方々にも興味深く、わかりやすい形で発信する。 このうち①については、新型コロナウイルスの感染拡大により、国内での遠距離移動を控えるべき状況が続き、全国の所蔵機関でも休館や利用制限の措置がとられたため、大阪府や京都府など近隣の一部機関にて原史料や刊行史料を調査・収集するにとどめ、以前に収集していた原史料の翻刻・校訂・分析に努めた。また、幕府に関する刊行史料を分析し、それらをカード化して整理することに力を注いだ。②については、江戸時代の中後期に幕府の大津代官が作成した裁判・行政に関する原史料の前半部分を翻刻・紹介した。③については、上方の行政や裁判を切り口に、幕府の政治機構を論じる報告を大学研究所の研究会で行った。また、享保期の大坂を中心に、上方における幕府の政治や法について講演した記録を全面的に再検討・改稿し、学術誌に公表した。さらに、吉宗政権以降に整備・確立される幕府法の中心部分を解明した高塩博氏の近著に関する書評を学術誌に公表した。④については、新型コロナウイルスの感染拡大により当初予定されていたものが中止となったため、実現しなかった。 以上のとおり、新型コロナウイルスによる制約はあるものの、本研究課題はおおむね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の新型コロナウイルスの感染状況に左右されるものの、3年目となる2021年度は、次の4つを柱に研究を進める。 ①感染の拡大が落ち着いた場合には、2020年度に予定した通り、日本各地の所蔵機関(大学や国・地方自治体の図書館・文書館・資料館・博物館など)を訪問し、江戸幕府に関する原史料(古文書)を幅広く調査・収集する。具体的には、東京都や長野県、京都府・大阪府・兵庫県などの所蔵機関において幕府の政治機構や法令・裁判に関する文書・記録類を調査・閲覧し、デジタルデータやマイクロフィルムの紙焼き写真の形で収集(撮影・現像・複写)する。 ②幕府に関する原史料のうち未刊行で重要なものを翻刻(活字化)・紹介し、学術上の共有財産とすることは本研究の主な目的の一つであるが、それには多大な時間と労力を要するため、江戸時代の古文書を解読する専門的な知識・技能を有した研究者の補助を得つつ、翻刻・校訂の作業に重点的に取り組む。その際、感染の拡大が続く場合には、各地の所蔵機関を訪問することができないため、以前に収集した原史料を対象とし、感染の拡大が落ち着いた場合には、新たに調査・収集した原史料も対象に含める。 ③収集・整理した刊行史料や翻刻した原史料を分析するとともに、先行研究の諸文献を再検討しながら、引きつづき上方を主なフィールドとして、幕府の政治機構や法令・裁判に関する研究を深める。また、それらの成果を学会・研究会における口頭報告や学術論文などの形で発表する。 ④自治体や大学の講演・シンポジウムなどの場で、一般の方々にも興味深く、わかりやすい形で発信することにより、研究の成果を社会や国民に還元する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は当初、①日本各地の所蔵機関を訪問して江戸幕府に関する原史料(古文書)を幅広く調査・収集すること、②新たに収集した原史料のうち未刊行で重要なものを翻刻(活字化)・校訂すること、の2つを重点的に進める予定であった。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大により、①・②ともに、ほとんど実施することができなかったため、①に関する「旅費」や②に関する「人件費・謝金」の支出がなく、多額の次年度使用額が生じる結果となった。また、各種の学会や研究会が中止されることやオンラインで開催されることも多かったため、本研究に関連する学会や研究会に参加したり、それらの場で自らの研究成果を発表したりする際に、従来のように遠方へ出張することが少なくなり、「旅費」の支出がなかったことも、次年度使用額が生じた理由の一つである。 新型コロナウイルスの感染が依然として予断を許さない状況にあるため、2021年度の使用計画としては、次の2つの場合を想定している。(1)感染の拡大が続く場合には、以前に収集した原史料を翻刻・校訂するための「人件費・謝金」に使用する。(2)感染の拡大が落ち着いた場合には、各地の所蔵機関を訪問して幕府に関する原史料を調査・収集し、(以前に収集したものに加えて)新たに収集した原史料を翻刻・校訂するための「旅費」・「その他」(複写費)と「人件費・謝金」に使用する。
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