研究課題/領域番号 |
19K01257
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
徐 行 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (30580005)
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研究分担者 |
戸谷 義治 琉球大学, 人文社会学部, 准教授 (10643281)
児玉 弘 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (30758058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 比較法 / 台湾法 / 司法院大法官解釈 / 憲法解釈 / 司法解釈 / 判例 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は台湾司法院大法官会議が行使している憲法の解釈および法律・法令の統一解釈権の運用実態を解明し、日本・中国との比較を通じて、法秩序の形成ないし台湾政治の民主化に伴う法の支配と人権保障の確立・深化におけるその役割を明らかにすることである。 初年度は800件近い大法官解釈の中から適切な分析対象を選定するための資料収集と台湾現地における予備調査を中心に研究活動を推進した。具体的には、2019年9月に代表者と分担者全員による現地調査を行い、司法院や立法院といった大法官解釈の制度運用において中核的な役割を果たしている機関を訪問し、司法院の憲法法廷において口頭弁論を行う場合の具体的なプロセスと実際に口頭弁論を行った数少ない事案について、現職の裁判官による説明を受けた(司法院大法官案件審理法が2019年に改正され、憲法訴訟法として2022年に施行されるため、今後は現行の会議形式に代わって、受理されたすべての事案について憲法法廷による裁判が行われる)。また、台湾における裁判官の養成・訓練施設である「法官学院」を訪問し、所蔵の資料を参考に市販の書籍や論文も確認し、台湾における先行研究の把握に努めた。現地調査では、大法官解釈の申請に関わった学者や市民団体、弁護士といった当事者に対するインタビューも行い、制度運用の活性化の原動力は市民側にあることを確認できた。 2019年12月には、9月まで大法官として在任していた湯徳宗東呉大学教授を招へいした国際シンポジウムを共催し、同性間に婚姻を認めない民法を違憲と判断した大法官解釈の具体的な論理とその背後にある法的・社会的背景について意見交換した。近年の台湾の大法官解釈は精緻な法解釈論に基づいて展開されているが、その背後にはやはり政治の民主化プロセスの影響が存在しており、場合によっては国際的な人権保障の流れの影響も否定できないことを再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
文献資料の収集や台湾における予備的な調査はおおむね計画通りに進んでおり、各メンバーの担当領域に応じて、大法官解釈の選定を12月に行い、比較の対象となる日本法と中国法関係の資料を収集したほか、台湾の民主化プロセスと近年の政権交代が大法官解釈の制度運用と解釈の内容に一定の影響を与えてきたこと、民主化の過程で生まれた市民側のインセンティブが制度運用の活性化に寄与したことも確認できた。 しかしながら、台湾側の共同研究者との意見交換の場として想定していた2019年12月に開催予定の第12回東アジア法哲学大会は主催校の都合で開催中止となり、2020年に入ってから新型コロナウイルスによる感染拡大の影響を受けて、台湾への訪問も、台湾からの専門家の招へいも不可能となり、2年目の研究計画へのスムーズな移行に支障が生じた。特に大法官経験者との面談を経て、現職大法官やその他の大法官経験者に対する聞き取り調査の必要性を感じ、予備調査で構築した人的ネットワークを駆使してそれを実現しようとした矢先にパンデミックが起きたことは、初年度の成果に直接的な影響は与えないものの、研究計画全体にとって、大きなセットバックとなる可能性はある。
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今後の研究の推進方策 |
国際的および日本国内の人的移動に対する制限がいつまで続くかによって計画が変動する。 2020年度の前半は収集した文献資料の点検・分析、メンバー間の意見交換(Web会議システムを利用する予定)、および2019年12月のシンポジウムにおける湯徳宗教授の報告原稿の加筆修正版の日本語訳の作成・公表を中心に研究活動を推進する。台湾側の共同研究者に文献研究の中間的成果について報告し、幅広く意見交換を行い、今後の現地調査の土台を作り上げる。 新型コロナウイルスによる感染拡大が早期に終息した場合、年度の後半は台湾を訪問し、大法官解釈の申請者側と大法官(現職および経験者)に分けて、聞き取り調査を行う。事案の種類はメンバーの専門に応じて、労働基本権・社会保障関連、環境保護・行政処分関連、中国大陸人民・外国人関連の3つのカテゴリーに絞って重点的にインタビューを行う。 新型コロナウイルスによる感染拡大が終息しない場合は、基本的な調査対象と調査内容を維持しつつ、Web会議システムによるインタビューを認めるインタビュイーを選定し、可能な限り聞き取り調査を行う。録音・録画について、インタビュイー側がコントロールできないため、特に大法官に対するインタビューが困難になるかもしれない。その場合、研究期間の延長も視野に弾力的に研究計画を調整する。 国内における研究集会や中間的な研究成果を発表するための国際シンポジウムも新型コロナウイルスによる感染の状況を踏まえて臨機応変に開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の研究費に関しては330,204円の残額が生じた。これは台湾側の共同研究者との意見交換の場として想定していた2019年12月に開催予定の第12回東アジア法哲学大会が主催校の都合により開催中止となり、参加予定だった代表者と分担者計3名の旅費が余ったことによる。 2019年度の残額は2020年度の交付額と合わせて、台湾における現地調査のための旅費、資料代として使用する予定である。
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