本研究の目的は、(1)系統学の手法を活用しながら市場におけるルールの変遷過程を解明するとともに(2)その背景となっている要因を探究することにある。市場取引を規制するルールの普及・変容・消滅の要因を記述的に明らかにすることを通じて、望ましい市場ルールをめぐる議論の基盤を整える。 最終年度にあたる2021年度に実施したことは、主として以下の3点にまとめられる。(ⅰ)オンライン調査を複数実施し、社会のルールの変遷とその要因、さらにルールの内容や社会的背景の地域差を調べるためのデータを収集した。(ⅱ)ルールと市場に関する複数の論文を公表した。それらの論文では、取引秩序の形成および市場の制御を掌るルール、政策における市場の機能、ソフトローなどについて論じている(他の論文も準備中である)。(ⅲ)デジタル化の進んだ社会環境で法の構造や機能がいかに変化していくかについて調査と考察を進め、その成果の一部を書籍として公表したほか、論文を執筆した(2022年度中に公表予定)。 本研究全体を通じて、ルールの変遷過程に関連する歴史的な資料と現時点のデータの両方を収集することができ、分析とそこから得られた知見をある程度までは公表することもできた。その一方で、研究が進むにつれて、市場におけるルールを論じるためには欠かせない視点や新たな課題も明らかになっていった。たとえば、ルールの変容プロセスにデジタル化がどのように影響するか、人々がルール自体を実際にどのように認識している(いた)のか、といった問題である。後者の問題は2022年度から始まる研究(「法規範の複雑性:『より理解しやすいルール』の研究」)とも密接に関わっており、測定によって得られる「客観的な指標」と、ルールの複雑性に関する「人々の主観的な認識」の関係を経験的にしていきたいと考えている。
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