「ロシア憲法憲法裁判所裁判官論―非民主主義レジームにおける憲法裁判」を考える出発点に置いたのは、大統領の地位と機能を定める憲法第80条をめぐる憲法裁判所判決のそれまでの分析を踏まえて、エリツィン大統領のもとでの政治レジームからプーチン大統領のもとでの政治レジームへの変化が、「憲法の危機」ではなく、「憲法の発現」と捉え得るのではないかと問題提起することだった。 問題提起の要点は、結局のところ、1993年憲法は、政府の大統領への一元的責任を定めた、または大統領と議会への二元的責任の権威的解釈を可能とする憲法であるという点にある。しかし、それ以上に重要なこととして、憲法裁判所裁判官(長官)であったバグライが、大統領の「基本機能」を定めた条文と第80条を理解し、この「基本機能」から、憲法の精神にも立脚した裁量による法システムの欠陥を埋める大統領の権限を導くことができると主張したことに注目した。この見解は、1995年7月31日の憲法裁判所判決(チェチェン判決)の根拠となっている。大統領の「基本機能」は権力分立では捉えきれないものである。 この点を、1998年12月11日の憲法裁判所判決(大統領は国家会議が拒否した候補者を連続して提案できるかが問われた)の通しても分析した。この判決によれば、国家元首である大統領は、権力分立における独自の地位から、権力分立で起こりうる国家機関間の対立を克服する機能をもち、また、国の内外政策の基本方針を決めるがゆえに政府を形成する憲法上の責任を有する。したがって、どのように首相候補者を提案するかは大統領の固有の権限である。この判決も、第80条から大統領の権力分立における独自の地位を導いている。 つまり、憲法裁判所は第10条で権力分立を定めているにもかかわらず、第80条を根拠に、権力分立では説明しきれない地位と機能を大統領に認めている。
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