本研究「分配的正義論と子育てコスト:親の正義論の観点から」の目的は、分配的正義論の具体化・応用問題である「子育てコストの社会的共有」に関する原理的指針の構築にある。この問題は「親の正義(parental justice)」論とも呼びうるものであり、その理論的研究を多角的な視点から行う。 2020年度においては、単著『子どもの道徳的・法的地位と正義論~新・子どもの権利論序説』(2020年10月 法律文化社)を刊行した。当該書の第3章「親の正義論~子育てコストの共有問題」において、上記課題を集中的に検討した。まず、「Ⅰ 子育てコスト分配問題」において、子育てコストの内容・外延について検討した。特に、昨今の子育てコストをめぐる現況についても言及した。次に、「Ⅱ コスト共有の正当化論―おとなと子どもの視点から」において、広くコスト共有問題の正当化について検討を行った。「おとな側の視点からのコスト共有説」として、フェミニズム説、親の自律説、公共財説、社会財説を取り上げ、それらの長短所や整合関係について検討を行った。さらに、「子ども側の視点からのコスト共有説」として、初期条件的自然資源平等説、運の平等説、一般的義務説、引き下げ平等説を取り上げ、それらの長短所や整合関係について検討を行った。まとめとして、「Ⅲ 子どもケアの公共化再論―誰が、どこまで」という視点から問題の整理を行った。発展的課題としては、現代的平等論との接合関係があり、それらの「諸主張を一定程度包摂しうるように思われる」(144頁)と小括した。
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