研究課題/領域番号 |
19K01267
|
研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
小柳 春一郎 獨協大学, 法学部, 教授 (00153685)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 相続登記 / 土地情報 / フランス法 / 所有者不明土地 / 公証人 |
研究実績の概要 |
2023年度の研究実績として、第一に、資料収集の継続があり、第二に、論文執筆がある。 第一の資料収集であるが、フランス相続法、不動産登記法の研究論文等の資料収集を継続した。 昨年度に継続して、フランス・オートマルヌ県の県立公文書館において、登記関連資料の資料収集及び関連して、地籍関連資料の資料収集を行った。昨年度につづけて、一つの筆(水車用地)を選び、土地台帳・登記簿書類を調査した。 ここでの発見は、相続申告制度(delaration de succession)の充実である。これは、対象物件では、1834年8月10日死亡の届出の後、相続申告は、1835年1月13日になされているから、約5か月後になされている。相当に迅速と考えられる。なお、本件の前後のものを見ても、死亡時と相続申告時は、ほぼ6か月以内であり、これが、不動産物件の売却時にも、所有者の履歴を見つけるために有効であったこと、同時に、この調査は、簡単なものではない(筆者も資料館の専門職員からの助力が必要)であるから、当時においても専門家の助力が必要であったと考えられ、公証人の介入があったと考えられる。以上は、具体の資料を通じた調査であるが、これは、1週間をかけても、1つの土地についてしか、確認できない状況であり(相続申告について多数の書類から権利者の名前を探索することは容易でない)、相当に時間がかかることも判明した。 第二は、論文執筆である。本研究課題直接のものではないが、相続土地国庫帰属制度に関して、小柳春一郎「土地所有権放棄をめぐる議論と相続土地国庫帰属法 (特集 「土地を手放す」という選択)」月報司法書士625号 2024年3月を発表し、また、「専門家影響遺言の問題性」(成文堂より出版予定の論文集)の原稿を提出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の調査を継続することで、フランスでは、相続登記制度導入の前に、地籍や相続登記を通じた所有者把握が行われていたこと、これが売買契約において、土地所有権の歴史をたどる場合に、有効な情報提供をしていたことが判明した。これは、昨年度の報告にもあることであるが、これを具体的な資料で明確化したことが今回の研究における重要な発見であり、これを単なる文献調査によらず、資料調査で明らかにした点で、本研究は、おおむね順調に進捗していると判断できる。これは、文献調査では、隔靴掻痒の感があったフランス相続制度について、ある程度明確なイメージを持つことができた点で有益である。 文献調査のレベルで言えば、相続申告は、税法上の制度であり、それ故、民事法的な所有権の存在と一致しない場合がありうる。それ故、真実の相続人ではない、表見相続人から善意で土地を取得した者が、真実の相続人からの返還請求を受ける場合がありえる。また、所有者の歴史をたどるには相当の調査が必要であるという理由から、相続登記制度が必要とされた。相続登記だけでは、相続移転の真実性は確保されない。このため、フランス法で初めて、相続登記を導入した1935年デクレが、相続登記されるものとして、公証人証書(attestation notariee)として、公証人の関与を要求した。それでも、なお、真実の相続人からの返還請求があり得る。この危険を防止するために、表見所有権(propriete apparente)の法理が発達したと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は、2点である。 第一は、個別資料調査の継続である。これは、フランスの県文書館での、身分関係証明、地籍、相続申告、登記関連書類(公証人作成による登記書類)を一件の不動産について総合調査するものであり、フランス不動産を理解するための基礎作業であるが、従来の研究は、これを行っていなかった。これは、極めて時間がかかる調査であるが、2年の調査を通じて個別事例については、内容把握を終えることができた。登記制度を論ずる場合に、実際の不動産売買契約を見ないで論じてきたこれまでの研究に対して本研究は相当重要な進展をもたらすと考えられる。 第二は、概括的文献調査の再開である。前年調査における検討事項であった1935年デクレ・ロワによる相続登記制度導入と公証人証書との関係を明らかにする作業である。これは、文献調査であるから、一定の時間をかければ可能であると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス禍等の混乱のために、十分な資料調査ができなかった。
|