2022年度は研究を総括すべく、次のような研究活動を行った。第一に、文献調査の方法によって明らかにしたドイツの外国人労働者受け入れをめぐる法的問題状況を整理・検討した。その結果として、参政権・入国の権利などは国籍者に留保されているものの、ドイツにおいては社会権も含めた多くの権利が外国人にも保障されており、合法に滞在する外国人の法的地位は極めて安定していることを明らかにした。他方において、外国人が権利を享受するにあたっては合法に入国することのできる地位を有しているかが決定的に重要となること、それゆえ出入国管理政策が重要な役割を担っていることを改めて確認した。第二に、ドイツにおける外国人労働者の社会統合がどのような特徴をもつかを、他国の状況との比較法的検討、西洋法制史の観点からの歴史的検討、法哲学からの理論的検討によって明らかにすべく、基礎法学系の研究者との意見交換を行った。第三に、基礎法学的視点からの総合的考察によって得られた視座から研究の総括を行い、研究成果を編著書として公刊した。すなわち研究代表者が共編者となり、執筆者との意見交換を踏まえて『移動と帰属の法理論』岩波書店、2022年を公刊した。第四に、この共編著について書評会を開き、行政法学者・法哲学者を招いて書評を行ってもらい、執筆者相互間でも更なる意見交換を行った。人の移動をめぐっては社会学や政治学においては多くの文献が存在するのと対照的に、法学的な視座からの本格的な研究は不在であった。同共編著はそのような状況を打開する基礎研究となったことを自負している。
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