研究課題/領域番号 |
19K01269
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
伊藤 知義 中央大学, 法務研究科, 教授 (00151522)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | セルビア / クロアチア / 近代法経験 / 前近代法経験 / ハプスブルク / 旧ユーゴスラビア / 同性カップル法制化 / カトリック圏正教圏 |
研究実績の概要 |
研究開始年度前年度末の2019年3月に発表した「セルビアにおける同性カップルの法制化と近代法経験」『中央・ロージャーナル』15巻4号(2019年3月)をうけて、この問題が、同じ旧ユーゴスラビアを構成していたクロアチアでどのようになっているかについて、検討した。この法制化が未だになされていないセルビアとは異なり、クロアチアは、2003年にすでに最初の法律を制定し、それが2014年に改正され、現在は、同性カップルに対して、養子縁組を除き、婚姻カップルとほぼ同じ権利が与えられ、オーストリア、ハンガリーなどと共通の法制度ができている。クロアチアがハプスブルク帝国の一部として長い歴史を歩んできたという、近代以前の前近代経験が、その大きな要因として考えられる。ほかに、カトリック圏と正教圏という宗教的相違、国際環境、国内政治の点から、分析した。セルビアにおける近代法受容を考える際にも、これらの要因、観点が重要であることが確認できた。この研究は、「クロアチアにおける同性カップル法制化と近代法経験」『中央・ロージャーナル』17巻1号(2020年6月)として刊行される。 共産党政権に国有化された私有財産を原所有者やその相続人に返還・補償する作業が、旧社会主義諸国で進行中である。ところが、セルビアでは、この動きは非常に遅い。スロベニアが1991年に、クロアチアが1996年にすでに返還補償法を制定しているのに、セルビアでは、2011年になってやっと立法が行われた。私的所有の保護は、近代法のもっとも重要な要素の1つである。セルビアでこの立法作業が遅れた理由がどこにあるのか、それがセルビアの近代法経験、前近代法経験とどう関連するのかを分析した。この研究は、「セルビア剥奪財産返還補償法―近代法への回帰と社会主義時代の清算はどこまで進んだか―」『社会体制と法』第18号(2020年6月)として刊行される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1844年セルビア民法典が、セルビアの近代法受容においてどういう意味を有するかという問題の周辺に関わる作業として、①同性カップル法制化と②社会主義時代に剥奪された財産の返還補償法について研究した。前者においては、研究課題の1つであるザドルガについても理解を深めることができた。21世紀におけるこれらの問題を検討する場合と同様に、1844年民法に「書かれた法」が実務においてどのように適用されていったのかを分析し、人々の法意識を探る材料の1つとして、前近代および近代におけるセルビアの法状況を知ることが重要であることが明らかになった。また、旧ユーゴスラビアを構成したクロアチアなどの周辺諸国との比較が極めて重要であることが改めて確認された。本研究課題の進捗は概ね順調であり、この方向で作業を続けることにより、所期の成果を得ることができる可能性が高い。
|
今後の研究の推進方策 |
手元には、セルビア語の資料が相当程度揃っているのだが、研究は日進月歩であり、セルビアでの新たな研究状況を知るためには、現地に赴き、ベオグラードやノヴィサドの研究者と意見交換することが非常に重要である。ところが、新型コロナウィルス感染症により、セルビアに入国することは不可能な状態に陥っている。周辺国の近代法経験を調査するために、クロアチアやボスニアへの出張も有益となるはずだが、同様にそれも不可能である。この状態がいつまで続くか全く不明だが、ネット上で入手可能な関連文献の収集を進めて情報のアップデートに努め、現地で調査できる日を待つしかない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末にセルビアで調査、インタビュー、資料収集を行う予定だったが、新型コロナウィルス感染症拡大のため、渡航することが不可能となり、研究計画を実行することができなくなった。この状況がいつまで続くのか全く分からないが、可能であれば、感染の収束後、今年度中に、前年度分を含めた研究計画を実現したい。
|