研究課題/領域番号 |
19K01272
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
本多 康作 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (70733179)
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研究分担者 |
八重樫 徹 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20748884)
萬屋 博喜 広島工業大学, 環境学部, 助教 (00726664)
谷岡 知美 広島工業大学, 工学部, 准教授 (60548296)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 差別発言(ヘイトスピーチ) / 発話行為概念 / 差別概念 / 社会的事実 / 発話行為論 / J.L.オースティン / R.M.シンプソン / マルチエージェントシミュレーション |
研究実績の概要 |
2019年度は3つの研究を実施した。(1)差別発言(ヘイトスピーチ)に関連した国内外の文献を収集し研究分担者と10回の文献研究会を開催した。(2)ロンドン大学のR.M.シンプソン氏を招聘しワークショップを東京・千葉・広島・京都にて開催した。(3)研究協力者である加藤浩介氏を中心にマルチエージェントシミュレーションを用いた差別のシミュレーションに関する研究に着手した。(1)(2)は理論研究、(3)は実証研究に位置づけうる。特に今年度の研究成果としては(2)があり、シンプソン氏には、“Is Hate Speech Punishable?”というタイトルで報告をして貰った。 シンプソン氏を招聘した理由は、氏のヘイトスピーチ研究から窺える学問的立場ないし態度が、研究代表者のそれに比較的近かったこと、そして氏のヘイトスピーチ研究の現在を直接会って確認したかったことにある。ここで学問的立場とは、ヘイトスピーチ研究にJ.L.オースティンの発話行為論を援用していることや、ヘイトスピーチ規制を議論するならば先決問題として社会的事実としてのヘイトスピーチの機能や特徴を解明すべきであるということ等である。 シンプソン氏によれば、哲学者や法学者は経験的な社会科学者や心理学者と協同する必要がある。哲学者や法学者の仕事である仮説の提示は経験的に検証されなければならない(我々の自由を制限しうる立法に証拠がなければ為政者の恣意となるため)。こうした態度にはまったく同意するが、しかしここで求められている「証拠」はどういう性格のものだろうか。本研究課題も実証研究を重視するものであるが、社会的事実とは何か、それを実証するとは何を要求していることになるのかを改めて検討する必要があることがわかった。また氏の仮説(今回の報告における)と発話行為論との関係も、今後検討すべき課題であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度に実証研究として、①実態調査と②ソーシャルメディアの統計分析に着手する予定であった。しかし次の2つの状況が生じそれらに着手できなかった。1つは予想以上にR.M.シンプソン氏を招聘するプロジェクトに時間を割くことになったこと、もう1つは研究協力者である加藤浩介氏を中心に実証研究の1つとして新たにマルチエージェントシミュレーションを用いた差別概念のシミュレーション研究にも着手することになったことである。しかし理論研究としては、研究分担者との文献研究会を予定通り定期的に開催でき、発話行為概念や発話行為論の系譜研究が予定していたよりも順調に進んだこと、またR.M.シンプソン氏との交流から新たな課題に気づくこともできた。 以上から現在の進捗状況は、全体としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、実証研究としては、年度前半に①実態調査と②ソーシャルメディアの統計分析に着手し、特に②に関しては研究協力者と定期的な研究会を実施し一定の成果を出したいと考えている。更に年度後半には③判例分析にも着手する予定である。 理論研究としては、昨年度に引き続き、研究分担者との文献研究会を定期的に開催し、発話行為論の系譜研究を進め、更に初年度に見出された新たな課題である社会的事実の証明問題や、シンプソン氏仮説と発話行為論の関係についても考察を深めていきたい。なお今年度は、2019年度の成果も踏まえ、理論研究の一部を纏め論文として投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に予定していた実態調査と研究会に他の業務との関係で出張できなかったため、旅費等に関し、未使用額が生じた。 2020年度以降、当該旅費等を使用し国外出張を計画しヘイトスピーチに関連する報告や意見交換を行う予定である。
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