研究課題/領域番号 |
19K01273
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研究機関 | 舞鶴工業高等専門学校 |
研究代表者 |
兒玉 圭司 舞鶴工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10564966)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 監獄 / 刑罰 / 自由刑 |
研究実績の概要 |
本研究では、「明治期の監獄が、近世から連続しているのか、断絶しているのか――すなわち、明治日本は「西洋」「近代」的な監獄を獲得できたのか」という問いに対して、一定の回答を得ることを目的としているが、かかる目的を意識しながら、本年度は「自由刑の場としての「監獄」」『歴史評論』876号(2023年4月、19-29頁)を発表した。同誌に掲載された、拙稿を含む特集「「監獄」研究の現在」では、分野の異なる複数の研究者がさまざまな観点から明治期の「監獄」を論じており、本研究が目標とする「明治日本が「西洋」「近代」的な監獄を獲得できたか」という論点への、各領域からの応答となっている。拙稿は、従来の研究をまとめる形で、「監獄」で行われた自由刑がいかなる理念のもと、どのような形で執行されていたかを、“刑罰の不可視化”という観点から論じた。その中で、明治日本に(近代的な)「監獄」が成立したと評価できるのは、1890年代であると結論づけた。 なお、本研究のテーマと直接的に結びつくものではないが、本年度に刊行された「1940年代後半の監獄法改正作業にみる戦前戦後の接続―立法資料から読み解く「中間的処遇」と「代用監獄」―」(石塚伸一編著『刑事司法記録の保存と閲覧』(日本評論社、2023年2月)235-258頁)には、本研究費を利用して行った史料収集の成果にもとづく記述がある。同論文は、日本の行刑において大正期から意識された「中間的処遇」が、終戦直後の監獄法改正作業においてどのように論じられたかを確認したものであるが、その前史にあたる明治・大正期の「中間的処遇」・「構外作業」への理解は、前掲『歴史評論』誌所載論文の執筆に際して行った調査とその成果にもとづいている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
一昨年度・昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、勤務先での感染症対策業務が繁忙を極めたことに加え、研究出張や史料調査にも一定の制約が生じていたことが主な理由である。 本研究では、明治期の「監獄」について①“ものさし”を作る人・測る人への着目―司法・内務官僚や典獄(刑務所長)の学識・キャリアの分析、②“ものさし”で測られる人々の追跡―被収容者の属性(年齢・犯罪歴等)の把握、③“ものさし”自体の成り立ちの検証―個票・統計の書式とその根拠法令の典拠や変遷の確認という3点から考察を加えたいと考えているが、2019年度に①と関連する論文を発表したのち、②・③に関わる作業を予定通りには進められずにきたところである。本年度は、一定の成果を発表することはできたものの、今後、上記②・③の問題を正面から扱った研究の進展が必要だと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
過去3年にわたり、新型コロナウイルス感染症の影響で、研究の進展が大きく阻まれてきたが、徐々に各種の制限が解除される中、今後は当初予定に沿った研究を進めたいと考えている。 まず、前向きな材料として、2022年度には月形樺戸博物館をはじめとする北海道の各施設や旧奈良監獄史料館を訪問し、各種史料の所在や利用可能性を確認することができた。結論として、必要な史料へのアクセスや、それらの利用が、現時点では困難であることが判明したが、各所の関係者と接点を持つことができたことに加え、将来的な利用可能性については一定の手応えを得られた。今年度も、その状況確認を継続したいと考える。 次いで、本研究が目標としてきた、②“ものさし”で測られる人々の追跡―被収容者の属性(年齢・犯罪歴等)の把握、③“ものさし”自体の成り立ちの検証―個票・統計の書式とその根拠法令の典拠や変遷の確認については、刊行または公開された統計情報や、国会図書館・法務図書館・矯正図書館等の所蔵史資料やデータベースを利用して、引き続き必要な情報の収集に努めたい。年度の半ばまでに必要な情報を集め、夏季休暇期間を利用して史料所蔵機関での補足調査を行った上、年度後半から論文作成を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、一昨年度からの3年間、新型コロナウイルス感染症の影響で、本務校において長らく感染拡大地域への出張が禁止・制限されていたこと、感染症対策等に起因して本務校の業務が著しく繁忙化していたこと、文献・資料収集のために利用する図書館・資料館が入館制限や閉館などの措置を取っていたこと、研究代表者が所属する学会・研究会の例会・総会等が中止・延期され、研究発表を行う機会が得にくかったことなどが挙げられる。 ようやく昨年度の後半頃、状況(時期)によっては史料調査のための出張も可能となり、また研究に時間を割ける見込みが立ってきたことから、本年度は史料調査・学会や研究会での成果発表、関連書籍の購入等により、計画していた予算を消化するとともに、論文の作成・刊行に結びつけたいと考えている。
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