研究課題/領域番号 |
19K01279
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
愛敬 浩二 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10293490)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イギリス憲法 / 政治的憲法論 / EU離脱レファレンダム |
研究実績の概要 |
2020年度はイギリスにおいても、新型コロナ感染の問題が深刻であったため、イギリスの憲法学者の間の議論も、その問題への対応が中心となり、EU離脱レファレンダム後の政治的憲法論の動向に関する研究を十分に行うことができなかった。とりわけ、本研究の方法として、日本国内での文献的研究の成果に基づいて、定期的にイギリスの憲法学者と意見交換を行うことを計画していたため、日本からの海外渡航が著しく困難であることも、研究遂行の上で大きな障害となった。 このような条件下で、2020年度は主に次の研究を行った。(1)新型コロナ対策(特にロックダウン等の厳しい人権規制)に対する現地の憲法学者の反応・議論の検討(日本の状況との比較を含む)、(2)1998年人権法の運用に対する批判的議論に対する政治的憲法論者の反応・議論の検討、(3)政治的憲法論の議論状況の調査・検討、である。(2)について補足しておく。EU離脱の基底にある「反ヨーロッパ感情」は法律論のレベルでは、ヨーロッパ人権条約の国内法化を実現した1998年人権法とその運用への批判というかたちで現れている。たとえば、元最高裁判事のSumptionによる人権法批判は、イギリスの著名な公法学者による総合的検討の対象となっており(N.W. Barber, et. al., Lord Sumption and the Limits of Law)、政治的憲法論の立場からの人権法擁護論等も示されている。そこで、Sumptionの問題提起を契機とする論争を調査・検討した。その成果の一部は2021年度内に公表する計画である。また、(1)の研究成果の一部は、日本のコロナ規制を検討した論稿「営業『自粛』と憲法」において、イギリスの憲法論議における「リバタリアニズム的人権観念」の問題性を指摘する議論等を参考にしつつ、比較憲法的考察というかたちで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染問題のため、イギリス政府の対応はそれへの対応が中心となり、イギリスの憲法学者の議論もその条件に規定されたところがあり、本研究のテーマに関わる議論が、当初の期待ほど進まなかったという問題がある。また、現地の憲法学者との交流が事実上閉ざされることになり、電子メールやZOOM会議等で一定の意見交換は可能であったとしても、計画に従って研究を進めることは困難であった。 ただし、文献的調査を進める中で、Lord Sumptionの問題提起を契機とする憲法学者の間での論争の存在を知り、同氏がイギリス政府のロックダウン政策の違法性を争う運動の中心人物であったことを知った。そして、イギリスのコロナ対策に関するQueen Mary大学のMerris Amos教授(人権法)の講演(ZOOM使用)に参加したところ、Lord Suptionの議論・運動をめぐる法律家の間の議論状況の検討は、本研究課題との関係でも一定の意義があることを確認できたので、2021年度以降の研究につながる検討課題を発見できたという点で、一定の進捗はあったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、これまでと同様、EU離脱レファレンダム以降のイギリス憲法学(特に政治的憲法論)の動向の調査・検討を行う。新型コロナ感染による現在の状況下では、文献的研究が中心になるが、電子メールやZOOM等を利用して、イギリスの憲法学者との意見交換を継続的に行う計画である。 具体的に検討するテーマとしては、2020年度から着手したLord Sumptionに関わる憲法論議の動向を調査・分析して、本研究のテーマとの関連を意識しつつ、2021年度内に論文として公表する。また、政治的憲法論の代表的論者であるKeith Ewing教授の長年の研究・実践を顕彰・検証する大部な書物が公刊されており(The Constitution of Social Democracy)、同書の検討はもちろんであるが、同書への寄稿者の近年の論稿等を調査・検討して、EU離脱レファレンダム後の政治的憲法論の動向についての研究を進める。 研究を遂行する上での課題は、海外渡航が困難なため、イギリスの憲法学者との間の時間をかけた意見交換や簡易なセミナーを実施することができない点にある。しかし、この点については、文献研究を強化する一方、電子メールやZOOM会議等で文献研究を補完しつつ、研究を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、海外調査をする機会がなかったことにある。また、2020年度前期は、新型コロナ感染対策のための遠隔授業に取り組んだため、講義の準備に多くの時間をとられて、研究時間を十分に確保できなかった。結果として、文献調査の時間も十分になく、図書の購入も当初の計画より少なくなった。 2021年度の使用計画としては、年度末までに海外調査が可能になることを期待しつつ、そのための渡航費用として使用するほか、現在の条件下では文献調査が中心になるため、研究課題に関わる文献収集を計画的に行う予定である。
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