研究課題/領域番号 |
19K01280
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
仲野 武志 京都大学, 法学研究科, 教授 (50292818)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 行政法 |
研究実績の概要 |
当該年度は、前年度に引き続き、行政法と刑事法の関わりについての基礎理論を探究した。 当該年度の前半では、国に対する行政法の適用と刑事法の適用を比較することを通じて、我が国の法体系における行政法と刑事法の位置付けの差異を踏まえ、そもそも抽象的・観念的にしか捉えられていない「国」が、様々な法的地位に立つこと、例えば、固有の資格における場合と私人と同一の資格における場合だけでなく、そ捉えきれないような捉えきれないような種々の立場に置かれることを明らかにした。このような作業は、近年、機関訴訟について、国の実体法上の法的地位の細かな差異を意識することなく、一足飛びに出訴資格を認めるという結論に達しようとする諸学説の問題点を浮き彫りにするものともなった。また、国は、決して法秩序を体現する無色透明な存在であるわけでなく、むしろ法秩序の中での異物に近い存在であることは、かつての主権無答責の議論や、帝国憲法下における軍隊の地位、現憲法下における外国軍隊の地位からも暗示されていたところであるが、当該年度の前半の研究を通じて、より広い視野から、公法学の基本問題ともいうべきこれらの重要論点を連結して捉える視角を手にすることができた。 当該年度の後半では、国及び地方公共団体の権能という観点から、行政法に関わる公権力の行使と刑事法に関わる公権力の行使との性質上の異同を解明することに努めた。具体的には、国及び地方公共団体の定義の中で、それぞれが有する権能を法的に言語化するという作業を行った。その際、既存の実定法上の概念がある場合には、できる限りこれによることとして、ともすれば個人的趣味に陥りがちな行政法学者の用語方の欠点を克服するよう心がけた。 なお、後述のとおり、当該年度の前半の成果は、当該年度中に公表することができたが、当該年の後半の成果は、翌年度に公表することとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の前半では、前年度に引き続く課題の検討を進めたが、その中で、当該年の広範に取り組んだ課題の重要性に気付くに至ったため、当該年度の後半では、当該課題に精力を振り向けたが、その結果、本研究全体の厚みが増すとともに、複線的な思考を備えるものとなった。当該年度の後半に取り組んだ課題は、本研究全体としては、寄り道といえるものであるが、本研究の裾野を広げるとともに、翌年度に繋がる展望を得ることもできた。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度の前半では、我が国の法秩序において国が占める法的地位が、本研究にとって死活的な重要性を有するものであることが判明した。次年度では、このような知見を踏まえ、とりわけ防衛行政を中心として、行政法と刑事法のかかわりを明らかにするよう努めてゆきたい。我が国の法秩序における行政法と刑事法との関係は、行政法と刑事法がどのように適用されるかに焦点を当てることによって最も明らかになるところ、これまでほとんど研究の対象とされてこなかった国に対する法令の適用の問題は、突きつめれば、防衛作用における行政法理論と刑事法理論の関係に行き着くと考えられるからである。 そこで、今後の研究の推進方策としては、自衛隊法の基本構造と渉外的な実力行使の総論的な考察を進めた上、防衛出動時の武力行使、我が国の領域で実施される武器の使用等、我が国の領域外で実施される武器の使用等について、国際法の枠内で憲法・行政法がどのような選択肢を用意しているか、また、これを具体化した政府見解がどのような奇論を前提としているか等について、分析を深めてゆきたい。その上で、軍隊に対する刑事裁判権の行使の問題について、これまでとは異なった角度から光を当てることができればと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の途中において、一時的に、新型コロナウイルス感染症の感染状況が改善されたため、外国出張を計画することとしたが、その後、感染状況が再び悪化したため、当該年度中の出張を断念せざるを得なくなった。 次年度は、研究計画の進展に伴い、いまだ我が国の図書館に収蔵されていない外国の書籍を多数購入することが予定されるため、次年度使用額は、これに使用することとしたい。
|