研究課題/領域番号 |
19K01282
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
柴田 尭史 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 講師 (30779525)
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研究分担者 |
丸山 敦裕 関西学院大学, 司法研究科, 教授 (00448820)
篠原 永明 甲南大学, 法学部, 准教授 (70734648)
高田 倫子 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80721042)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 基本権 / 裁判所 / 裁判官法 / 議会 / 一貫性の要請 / 私人 / 民間法 / スポーツ法 |
研究実績の概要 |
研究初年度である2019年度は、研究代表者と研究分担者、および研究協力者を中心に、近畿圏の大学の大学院生を招き、2019年6月、8月、11月、2020年2月に4回の研究会を行った。 2019年度は、以上の研究会の中で、「基本権実現の主体」を中心に検討を進めた。特に基本権実現の主体としての裁判所、議会、私人について、ドイツにおける現在の議論状況を確認した。そのために、ドイツ人研究者による本研究に関わるテーマの論文を手掛かりに、報告を行い、参加者と活発な議論を行った。 第1回の研究会では、憲法解釈における裁判官の解釈主体としての意義について研究をし、優れた業績を上げている大阪大学助教の原島啓之氏をゲストスピーカーに招き、ドイツにおける法実現主体としての裁判官と判例の中で実現される基本権の意義について報告をお願いした。第2回、第3回の研究会では、研究代表者である柴田が、法律制定を通じた議会による基本権の実現を取り上げ、議会法律の意義として、規制となると同時に基本権の実現となり、また、規制の目的と対象を同じくする法律については、別の法律であっても、要請される「一貫性」について報告した。第4回の研究会では、研究分担者の篠原永明准教授が、基本権実現における私人を取り上げ、私人も、憲法訴訟の当事者としてだけではなく、契約や工業基準の策定のような行為によって一種の拘束力をもつ法的なルールを作成することで基本権実現の主体となりえ、このような私人が創出するルールを法的に観察する可能があることについて報告した。 2019年度内に、基本権実現の主体としての行政を検討できず、2020年度の課題となったが、以上の3つのアクターの活動の意義の検討を通じて、基本権実現における役割の違いを明確にできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、「基本権実現の全体像に関する研究」のうち基本権実現の「主体」に注目して研究を進めた。このことによって、基本権の実現主体である裁判所/裁判官、議会、および私人についてそれらの活動の中における基本権の機能、および基本権の実現のあり方について解明することができた。また、定期的に研究会を実施し、これらの主体についてドイツにおける基礎的な文献を研究分担者がそれぞれ取り上げ、その内容の報告・検討をすすめた。それにより、研究分担者と研究代表者が、それぞれの分担テーマを深めるとともに、互いに関連している他の基本権の実現主体についての議論を把握し、自身の研究テーマとの他の主体の関連性を明確にすることができた。 さらに、初回の報告を原島啓之氏に依頼し、快諾を得た。原島氏は、裁判所による憲法適合的解釈について研究し、その論文は学界でも評価が非常に高い。初回の報告を依頼したことで、本研究の目的や意義について原島氏の理解を得ることができ、2020年度より本研究の研究分担者として参画を頂ける予定である。原島氏が本研究に参加することで、基本権の実現主体としての裁判所の研究にさらに厚みが増すことが期待できる。 研究協力者のご協力を得、また原島氏の賛同を得つつ、1年間研究分担者による研究会を進めてきたことで、研究分担者の研究は順調であるということができる。しかし、「おおむね順調」としたのは、本研究に関連する優れた業績を上げているドイツ人研究者を日本に招聘し、研究分担者と研究協力者との質問会を、また本科研費の成果を社会・学界に還元すべく外部にも開かれた講演会を催すことで、ドイツとの国際学術交流を計画していたが、先方の予定との関係で2020年度に延期となった。2019年度は、日独交流の点で順調さに欠けることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、19年度に引き続き、基本権の実現の主体の研究を進め、特に行政による情報提供と金融市場規制における基本権の機能とその実現をテーマに、基本権の実現の主体としての行政についての研究を行う。このことによって、基本権の実現の主体についての研究に一応の区切りをつけたいと考えている。この研究は上半期で遂行する予定である。 そして、年度の下半期からは、「基本権実現の全体像に関する研究」の中でも、基本権の実現のあり方について研究を進める計画を立てている。この研究では、研究分担者の篠原永明准教授を中心に、ドイツにおいて「基本権の内容形成(Ausgestaltung der Grundrechten)」と呼ばれている、基本権の実現/具体化の議論を主軸に研究会を進めていく予定である。 また、本年度は、本研究のドイツ人の研究者による基本権の実現の主体についての議論を多く参照した。そのため、それらについての研究分担者から教授への質疑応答の機会、および教授の議論・研究の現状について紹介をいただくべく研究会を開催する計画である。 しかし、本年度については、新型コロナウイルス感染拡大により、本報告を作成している5月末時点で、大学の研究施設の利用が禁止されているため、研究分担者を中心に定期的に行っている研究会を実施できない状況にある。また、日独ともに海外渡航の自粛が要請され、航空機の減便や欠航が相次ぎ、ドイツ人研究者の来日、および講演会の実施もできず、また、研究分担者の渡独、およびドイツでの文献収集とドイツ人研究者への意見聴取が不可能となっている。このような中でも、メール会議、インターネット会議システムを利用することで、感染拡大を防止しつつ、本研究を継続させるべく模索している最中である。ただし、今後の研究計画の大幅な見直しは必至となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、「基本権の実現」というテーマについて、ドイツの議論の比較検討に主軸を置き、研究を進めている。そのため、ドイツ人研究者の招聘と講演会の実施、および研究分担者のドイツにおける文献収集と意見聴取といった日独の学術交流に重点を置き、旅費に研究費の多くを計上している。2019年度の研究の経過状況においても記載したように、2019年は、研究分担者による国内での定期的な研究会は順調に開催できたが、本研究のテーマに関連のあるドイツ人研究者を招聘することができず、また、研究分担者のドイツへの研究旅行も、それぞれの校務との兼ね合い、新型コロナウイルス感染が広まりつつあったことから出張自粛が呼びかけられたことで、予定通り遂行できなかった。そのため、研究費の多くの部分を占める旅費が次年度使用額として生じた。 本年度は、新型コロナウイルス感染拡大により海外との往来が制限される状況が当分見込まれるため、次年度使用額のうち旅費としての執行は厳しい見通しを立てている。 そのため、国内での研究が少しでも進めることができるように、また、海外との往来の制限が解除された際には、日独との学術交流を内容面で円滑に進められるように、次年度使用額うちの旅費の一部については可能な限り物品購入に振り替え、研究分担者に配分することを計画している。また、海外との往来再開後は、旅費としての執行も計画している。
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