研究課題/領域番号 |
19K01282
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
柴田 尭史 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 講師 (30779525)
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研究分担者 |
丸山 敦裕 関西学院大学, 司法研究科, 教授 (00448820)
篠原 永明 甲南大学, 法学部, 准教授 (70734648)
高田 倫子 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80721042)
原島 啓之 大阪大学, 法学研究科, 助教 (30883508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 基本権 / 行政 / 金融監督 / 規整 / 比例原則 / 裁判所 / 立法者 |
研究実績の概要 |
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大によって研究・教育が大きく変化を強いられることになり、上半期は、研究会を実施することが非常に困難であった。しかし、下半期において、研究分担者と研究協力者の多大な協力の下で、研究をようやく再開することができた。 下半期においては、2019年度の議論に引き続き、基本権の実現・具体化の主体の研究を行い、また基本権の実現の手法の問題にも研究を進めた。 基本権の実現・具体化の主体の研究については、2019年度に私人、議会、裁判所を検討し手織り、残る主体は、行政である。行政については、高田倫子准教授を中心に、ドイツにおける金融監督を素材に行政による基本権の実現・具体化の問題を検討した。金融監督論においても、ドイツで今日定着している「規整(Regulierung)」が重要な役割を果たし、自由競争を確保・促進するために、国家が金融市場を枠づけ(=規整し)つつ、その中で、法人を含む金融市場参加者が金融市場で経済活動を行う。このように、規整のレベルでは、基本権、とくに経済的自由が制約されることになるが、同時に経済的自由を確保・促進する効果を有し、この意味で基本権の実現・具体化が図られることになる。 基本権の実現・具体化の手法の問題として比例原則を検討した。この研究は、2021年度に中心的に扱うテーマであり、2020年度の研究はその先鞭となるものである。原島啓之氏を中心に、ドイツにおける比例原則の問題を検討し、比例原則が基本権の実現・具体化とどのような関係にあるのかを探った。日本において、比例原則は、裁判所の審査手法というイメージが強い。今回、ドイツにおける議論を検討した結果、立法者の立法を憲法裁判所が審査するという、立法(者)による基本権の実現・具体化(=制約)に重点があり、「立法(者)」が注目されていることを再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、大学における研究と教育のあり方が全面的に変化を強いられることとなった。特に、本研究の研究代表者と研究分担者も、全国の大学に所属するほとんどの研究者と同様の状況であり、これまで遠隔授業を実施したことはなく、とくに2020年度上半期は教育方法を試行錯誤する日々が続き、エフォートのほとんどを教育に回さざるを得ない状況に陥った。そのため、2020年度上半期は、研究会の実施は全く見込める状況にはなかった。 しかし、2020年度下半期は、上半期の成果により、遠隔授業も軌道に乗り出したこともあり、研究者分担者の多大な協力により、ようやく研究会を再開することができるようになり、【研究実績の概要】に記した内容の研究を実施することができた。ただ、基本権の実現・具体化の主体論の一部の検討が残っているが、それは2021年の早々に検討することが可能である。また、基本権の実現・具体化の手法の検討が端緒についたことによって、2021年度に繋げられることとなった。 ただ、本研究は、日独の学術交流もその目的の一つとしており、ドイツの研究者の日本への招聘、およびドイツでの意見聴取・資料収集を予定している。しかし、2020年7月にドイツの研究者の招聘を予定していたが、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックのため、2021年秋に日程の変更を余儀なくされた。 新型コロナウイルスの感染拡大によって、研究会の実施や国際交流のペースとしては、「(3)やや遅れている」に分類される状況にあるが、研究分担者の協力により研究の内容面では「(2)おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度の2021年度においては、次の段階で議論をまとめていく予定である。まず、2020年度からの宿題となっている基本権の実現・具体化の主体の議論を早々に完結させ、主体の多様性の問題を解明する。そして続いて、基本権の実現・具体化を検討を進めていく。具体的には、「基本権の内容形成」と呼ばれるドイツの議論の構造と意義について検討を進めていく。基本権の内容形成論は、すでに日本でも紹介され、知られている議論である。しかし、体系的に紹介されてから、10年近くたっており、その間にも議論の展開があることから、基本権の内容形成の問題を再検討する。また、これまで検討してきた主体の問題と関連させ、基本権の実現・具体化について本研究の(暫定的な)結論に結び付けることを予定している。 国内の研究会については、2020年度に引き続き、オンラインで行うことを継続し、研究分担者どうしの学問的なつながり・発表の機会を確保していくこととする。 2021年度においても、新型コロナウイルスの感染が続いているため、日独交流については、現時点で全く先行きが見えない状況が続いている。今後の感染状況、ワクチンの接種状況、および海外渡航の可否の状況を見極めつつ、既に来日・講演を依頼している研究者と相談し、講演会のあり方を模索していく。また、これまでの研究の中で日本で所蔵されていない文献もあることから、日本側の文献調査も、上記の観点から、状況を見極め、可能であれば実施する予定である。ただし、とくに日独交流については、大幅に変更する可能性も留保されている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、「基本権の実現」というテーマについて、ドイツの議論の比較検討に主軸を置き、研究を進めている。そのため、ドイツ人研究者の招聘と講演会の実施、および研究分担者のドイツにおける文献収集と意見聴取といった日独の学術交流に重点を置き、旅費に研究費の多くを計上している。本研究のテーマに関連のあるドイツ人研究者を2020年7月に予定し、計画してきたが、日本とヨーロッパともに渡航中止が要請され、招聘することが不可能となった。また同じ原因で、研究分担者のドイツへの研究出張も、新型コロナウイルスが全世界的に爆発的に感染が拡大したため、出張が不可能となった。そのため、計画が予定通り遂行できず、2020年度も、研究費の多くの部分を占める旅費が次年度使用額として生じた。 2021年度も、新型コロナウイルス感染症のため海外との往来が制限される状況が続いているが、感染状況、ドイツにおけるワクチン接種状況などを適切に判断したいと考えている。また、2021年も、旅費を物品費に振り替えるなどの措置をとりつつ、本研究を適切に遂行していく予定である。
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