研究課題/領域番号 |
19K01282
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
柴田 尭史 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 講師 (30779525)
|
研究分担者 |
丸山 敦裕 関西学院大学, 司法研究科, 教授 (00448820)
篠原 永明 甲南大学, 法学部, 准教授 (70734648)
高田 倫子 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80721042)
原島 啓之 大阪大学, 法学研究科, 招へい研究員 (30883508)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 行政 / 内容形成論 / 基本権ドグマーティク |
研究実績の概要 |
令和3(2021)年度は、次の3つの研究を行った。まず、主体に注目した各論的なテーマのうち、丸山敦裕教授を中心に、行政による情報提供を具体例として行政による基本権の実現の検討を行った。ドイツとの比較において、とくに経済的自由の分野における行政による情報提供は、基本権の内容形成と同時に、基本権の侵害ともないことが明らかにされた。 次に、篠原永明准教授を中心に、「内容形成」論を検討した。研究機関のうち、これまで、私人、立法者、裁判官、行政というアクターに注目して、基本権の実現を研究した。ドイツでは、基本権の実現は「内容形成」論として議論される。その際、防御権か内容形成かという二者択一で語られることが多かった。しかし、近年のドイツでは、このような二者択一の理解ではなく、「防御権によって把握されうる基本権は、内容形成を必要とする」(クリスティアン・ブムケ)というように両者が相補的な関係にあることが明らかになった。 そして、最後に、原島啓之研究員を中心に、ドイツにおいて「基本権の内容形成」がどのように登場し、またどのように定着していったのか、を基本権ドグマーティクの文脈の中で検討した。一つの考え方として、次のようなものがある。ワイマール憲法の学説にその萌芽がみられる。しかし、戦後、防御権構想が中心的でありつつも、その中で、内容形成論は特に連邦憲法裁判所の判例において大きく進展した。そして、一つのテーマとして本格的に研究されるようになったのは、90年代以降のことである。 ただ、令和3年度も新型コロナウイルスの世界的な感染は終息することがなく、その対策の一環としてとくに海外との往来に制限が継続されている。そのため、本研究は、比較法の対象であるドイツとの学術交流も計画していたが、当面の間延期せざるを得ない状況にある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、基本権の実現には、多様な主体によって行われる多段階構造であることを解明することを目的とするものである。具体的には、議会、裁判所、行政という国家機関だけではなく、私人もその主体であり、こういった主体が複雑に関与しながら、基本権の実現は実現されていくことを明らかにするものである。【研究業績の概要】で書いたように、令和3年度は、具体的な主体論の最後の行政による情報提供をテーマにこのことを検討した。そして、全体のまとめとなるドイツにおける「内容形成」論を検討した。これらの検討によって、新型コロナウイルスの急速な感染によってさまざまな対応を迫られているにもかかわらず、研究分担者の多大な継続的な協力をもって、本研究の申請段階において研究テーマとした課題は、ほぼ遂行できた。さらに、基本権の実現、とくに内容形成論の基本権ドグマーティクの文脈における位置づけの研究も追加で行うことができた。 令和3年度のこれらの国内での研究成果から、本研究は「順調に進捗している」と評価してもよい。しかし、後述するが、本研究は、比較法の対象としているドイツとの学術交流も計画しているが、残念ながら、新型コロナウイルスの世界的な感染によって、またロシアによるウクライナへの侵略によってそれが実現できていない。そのため、「おおむね順調に進捗している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
【研究業績の概要】および【現在までの進捗状況】において書いたように、新型コロナウイルスの世界的な感染はいまだに終息をみることなく、とくに海外との学術交流に重大な影響を及ぼしている。さらに、空路の関係上、ウクライナ侵略によって追い打ちをかけられている。 本研究では、基本権ドグマーティク、とくに内容形成論について優れた業績を有する、ドイツの研究協力者であるクリスティアン・ブムケ教授(ブツェリウス・ロースクール[ハンブルク])の招聘を当初より予定し、教授にも快諾を得ていたが、いまだに果たせていない。ブムケ教授には、ドイツにおける基本権に関する研究報告を依頼して、これについても快諾を得ている。まず、当初の予定通り、ブムケ教授を招聘するために、教授と調整している。また、可能であれば、日本側からもドイツに研究者を派遣し、現地での文献収集・意見聴取を行いたいと考えている。このことによって、新型コロナウイルスによって中断を迫られた海外との学術交流再開の一助としたいと考えている。 また同時に、本研究の研究費の配分を再検討し、これまで国内で行ってきた研究の精度をさらに高めるべく、文献面での研究を進めていきたい。それらの研究成果を公表していきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度も新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が収束することがなかった。そのため、本研究の比較法の対象であるドイツとの学術交流が出来なかった。具体的には、ドイツにおける文献収集と意見聴取、および、ドイツ人研究者の日本への招聘、講演会の開催が出来なかった。 本研究の研究費の多くを、本研究の代表者および分担者がドイツにおいて文献収集・意見聴取するため、またドイツ人研究者を招聘割するための旅費にり当てていたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、以下のとおりである。まず、2022年末にクリスティアン・ブムケ教授の来日を計画しており、ブムケ教授の滞在費用に充てる計画である。次に、海外との往来について政府と所属大学の方針が緩和される場合は、ドイツに滞在し、文献収集・意見聴取を行う計画である。ブムケ教授の滞在費用以外の次年度使用額についてはドイツへの渡航費に使用する計画である。ただ、新型コロナウイルス感染症およびロシアによるウクライナへの侵略により現時点では見通しが立たない。ドイツへの渡航ができない場合は、国内での研究の精度をさらに高めるために上記の次年度使用額については文献の購入等に使用する計画である。
|