研究課題/領域番号 |
19K01283
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
富井 幸雄 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (90286922)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アメリカ憲法 / 権力分立 / 司法審査 / 制定法解釈 / シェブロン法理 / 敬譲 / 外交 / 安全保障 |
研究実績の概要 |
本研究は、外交が公法学でどのように考究されるべきかの枠組みを構築することを試みる。基本的には、外交の憲法的位置づけ、とくに執行権と立法権の関係と、そうした政治機関で運営される外交に対する司法的統制を主たる関心とし、その考察の手掛かりとしてアメリカ憲法での議論を研究する。とくに外交が法の支配との関係でどのように位置付けられるのか、立法の拘束をどこまで受けるのかを考察する。 外交は主として執行権の権限である一方で、議会の制定法の拘束を免れないとみる。もっとも、外交の専門性や政治性からそれは執行権の裁量を広く認めており、議会も外交に関する立法では執行権に自由な判断を余地を多く持たせることにならざるをえない。その結果、外交は制定法の拘束を受けるけれども、その解釈は執行権の優越が認められることになると考える。であるなら、そうした制定法に基づく外交は執行権の専権を生むことになり、それを司法がどう統制するかが問題となる。 アメリカにおいて、曖昧な制定法に関してい執行権の判断に司法が敬譲(deference)する、シェブロン法理がある。これは行政法に関する法理であるが、外交に当てはまるのではないか、そうであるとすればいかなる問題があるかを考察した。まず、シェブロンとは何なのか、行政法の解釈の手法や権力分立との関係を考察し、憲法学的インプリケーションを分析した。シェブロンは行政国家の象徴とされる一方で、司法権の法解釈における矜持や議会の法解釈権の執行権への授権の観点から今日、法理の射程を限定するなど動揺している。こうしたいことをシェブロンを否定する最高裁判事ゴーサッチの議論を分析することで検討した。次に、そのうえで、そうとはいえシェブロンは依然法理であり、これを外交における制定法の解釈に結び付ける議論を分析して、司法が外交に関して敬譲や司法判断をしない法理を肯定的に検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ憲法学での外交に関する研究を推進していく計画で、憲法における外交の位置づけを巡って、権力分立での議論と連邦制での議論を検討していく目論見であったが、前者の部分のみの研究になった。大統領が外交の主体であるけれども、議会は予算のみならず立法でもそれを規制することがあり、少なからず外交は制定法の執行の要素があることを確認した。さらにその統制として司法が考えられるところ、シェブロン法理で敬譲モデルが適用されるとする有力な議論を分析した。ただそれを示す前提として、シェブロンそのものの公法学における意義を明確にする研究を実行しなければならなくなり、それ自体は直接外交にかかわるものではないけれども、いま述べたように制定法の解釈で外交に適用されうる法理であると考え、ゴーサッチのシェブロンへの立ち位置を素材として分析した。これに相当の精力をとられることになり、連邦制や、議会と大統領の対立の分析にまでは手が回らなかった。その意味で計画通りとはいかなかったが、シェブロンの外交への適用といった新たな視点を得ることができ、この課題の研究は進展があったと認めるものである。外交が制定法の執行である側面があること、そうしたい制定法が曖昧であること、これを外交に責めのある執行権が埋めること、これをどう統制するかでシェブロンを適用して司法が敬譲すること、の所見を得た。なおその結果、外交の司法統制が必ずしも効果的たりえないとの仮説を持つに至る。外交の司法統制の研究項目を掲げており、まずは憲法と外交に関して議会と大統領の関係や連邦制といった実体の問題から着手することにしていたが、司法的統制の問題を先行させることになった。ただこれは当初から研究課題としており、本研究の体系的理解に資するので、有益であった。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、2019年度の成果をペーパーにまとめることで完成させる。シェブロン法理の分析と、外交における制定法解釈の司法の敬譲の議論を論文にまとめ完成させるのが目下の作業である。それが完了次第、当初計画していた外交をめぐる連邦制の問題に取り組む。また権力分立上外交は執行権=大統領の専権とされるところ、大統領が国際法特に条約の解釈や適用についてこれを無視する事実に着目しながら、大統領と外交に関して憲法学的分析を試みる。具体的には、第1に、2019年度は制定法の解釈にこだわったが、条約の解釈について大統領のそれがとりわけ司法審査において敬譲されるのかの課題に取り組む予定である。第2に、外交は連邦政府の権限であるけれども、そのプロセスに州がどう絡んでくるかといった、外交と連邦制(federalism)の議論に注目する。 オーソドックスな法学研究に則り、文献を中心で研究を行い、それを基礎としてアメリカの大学等で情報収集をおこなう。2019年度はAntonin Scalia Law Schoolで有益なリサーチや意見交換を行うことができ、2020年度も現地研究を行う予定でいる。その分野のアメリカの施設や研究者などとのつながりを持ち始めることができ、これを発展させていきたい。ただし、コロナの影響でこうした情報収集をふくめて、この研究計画がこの年度で実行できるか不安である。実行不可能の時は現地研究は翌年度に繰り越すことにし、今年度は文献分析で研究を充実させていく。文献の収集は着実に進行しており、講学面での研究は計画通りにいくものと推察する。
|