最終年度である令和5年度においては、前年度までの研究成果を踏まえた上で、国家教会法及び国法学上の宗教的諸問題を検討する作業を行った。第一に、ドイツにおける宗教団体の憲法上の特権地位の付与に係る判例理論の研究など、ドイツ連邦憲法裁判所で扱われた事例を憲法理論の観点から検討を加えた。この成果の一部については、研究代表者自身が編者を務める『ドイツの憲法判例Ⅴ』(信山社)にて令和6年度中に公表予定である。第二に、宗教問題及びこれに関連する憲法問題に関して、日独の実務及び学説について検討を加えた。この成果の一部、特に、宗教問題と密接に結びついた婚姻及び家族に係る憲法解釈の検討について、「憲法条項と憲法判例における婚姻概念の日独比較」としてまとめ既に公表済みである。 2020年1月からのいわゆるコロナ禍により、ドイツでの資料収集や同地での憲法学者との意見交換の為のドイツ渡航が著しく困難となり、この観点から当初予定した研究計画が大幅に遅れ、変更を余儀なくされたことは大変残念であるが、これ以外については、教会法学の基本思考の検討、国家教会法学や憲法理論上の基本概念の検討、そして、国法学又は憲法学上の宗教的諸問題の検討という研究計画はおおむね実行できたと思われる。 第一に、基本法上のいわゆる教会条項を世俗憲法に寄せて理解する基本権化の現象が進行してはいるが、少なくとも国家教会法(又は宗教憲法法)の次元においては、本研究の対象のスパンを戦後ドイツ法学に広くとったとは言え、実定法解釈における福音主義キリスト教神学のプレゼンスが比較的高いということが明らかになった。第二に、世俗法学としての国家教会法、国法学においても、それが比較的保守的な学説に顕著であるという偏りがあるとは言え、上記の形而上学的な福音主義神学の影響力を断片的ながらも発見できることが明らかとなった。
|