本研究は、従来の規制緩和に係る「行政発案型」という特徴から「自主創意型」への展開が見られる点に着目し、イギリス金融制度が発祥の「規制のサンドボックス」制度を素材にして、その公法学的な見地から研究を進めることを狙いとしたものであった。研究スタート時(2019年度)は、素材となる「規制のサンドボックス」制度の具体的構造を、文献調査を主として研究を遂行することができた。それを踏まえたうえで、2020年度にはイギリス出張を念頭に準備を進めていたところ、コロナ禍による海外渡航制限などが重なり、引き続き文献調査を深めたが、最終年度(2021年度)も状況が変わらず、海外での調査研究は断念せざるを得なかった。 しかし、当初予定の研究内容に比して、多角化を実現できた点は極めて大きい。具体的には、①研究遂行時に当該制度の金融分野以外への拡大やイギリス以外の諸外国(申請時に予定していた米豪のほかシンガポール、スイス等)にも導入されている実態、②先端技術(AI、ブロックチェーン技術)と金融分野外の関係など、当初の本研究では想定しづらかった新分野の発見、といった研究に係る軸足の拡大を可能とできた点である。このほか、後述の研究実績にも掲げるように、関連する諸論文およびそれを含め体系化した単著も研究期間内に公刊できたことで、本研究が当初念頭に置いた公的な規制の要否を見極めるという公法理論の視角を、より多角的に論ずる契機を持てたと考える。 以上にあって、本研究の遂行に際し、残された諸課題が存することも発見できた。具体的には、日本における「規制のサンドボックス」制度(生産性向上特別措置法)の運用実態が、諸外国に比べ低調であり、同制度が日本の法制度になじむか否かという視点を含めて、より理論的見地からの検証を要することを発見した。これにより、本研究を次の段階につなぐ軸足を形成できたと考える。
|