2023年度については研究期間の最終年度に当たるため、これまで実施した研究活動を踏まえ、本研究課題の研究成果をまとめる作業を行った。すなわち、本研究課題は、近年のアメリカにおける「文化戦争」を背景とする信教の自由に関する新たな問題状況について、宗教に対する法適用免除をめぐるリベラル派と保守派の対立構図の「変容」という視点を踏まえ、判例の動向を中心に分析・検討を行うことを目的とするものであるが、まず、近年の信教の自由に関する重要判例である2014年のHobby Lobby判決と2018年のMasterpiece Cakeshop判決について、関連判例をも踏まえた分析を行い、これらの判決に共通する特徴について検討を加えた。その上で、これら判決の分析・検討に基づき、近年では宗教に対する法適用免除をめぐりリベラル派と保守派の対立構図に「変容」が見られることを指摘し、その「変容」のあり様について、直近の2021年のFulton判決をも踏まえた分析を行い、リベラル派・保守派双方の信教の自由観などの析出を試みた。本研究課題を通じて得られた研究成果については、現在、学術論文として公表するための作業を進めているところである。なお、以上の研究活動を遂行するために、連邦議会図書館での資料収集を目的にアメリカ合衆国への出張を行った。 2023年度に公表された研究成果としては、本研究課題の主たる分析対象であるMasterpiece Cakeshop判決を含む、信教の自由に関する近年の合衆国最高裁判決を分析した論稿を収めた書物(共著)の他、所属学会において本研究課題に深く関連する2023年の303 Creative判決について報告をする機会を得た。
|